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ふるさと四季の花巡り⑩

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王滝渓谷の紅葉
 
これまで紹介してきたのは地元の知る人ぞ知る隠れた花の名所ばかりです。紅葉も全国的に有名なのは足助の香嵐渓ですが、交通が車(バス)しかなく恐ろしく渋滞します。王滝渓谷はその近くにありますがちょっとハイカー向きかもしれません。
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年末にかけて注目のウェブTV オペラ中継

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NHKミラノ・スカラ座特集については先に書きましたが、ヨーロッパのウェブTVも魅力的なものがあります。
 
①ミラノ・スカラ座開幕ライブ中継 「椿姫」
 NHKの放送は12/23(月)ですから早く見たい人にはおすすめ。
Arte LIVEWeb 12/7(土) 4:50pm (JST翌0:50)
ダニエレ・ガッティ(指)、ディミトリ・ツェルニコフ(演出)
ディアナ・ダムラウ(ヴィオレッタ)、ピュートル・ベチャワ(アルフレード)
ジェリコ・ルチッチ(ジェルモン)
  
②バイエルン国立歌劇場 「影のない女」
BSO TV  12/1(日) 6:00pm(JST翌2:00)
3sat 12/1(日) 7:00pm(JST翌3:00)
キリル・ペトレンコ(指)、Krzysztof Warlkowski(演)
ヨハン・ボータ(皇帝)、アドリエンヌ・ピエチョンカ(皇后)
ヴォルフガンク・コッホ(バラク)、デボラ・ポラスキー(乳母)
 
③同上 「運命の力」
BSO TV  12/28(土) 6:00pm (JST翌2:00)
アッシャー・フィッシュ(指)、マーチン・クシェイ(演)
Vitalij Kowaljow(カラトラーヴァ公爵)、アニア・ハルテロス(レオノーラ)
ヨナス・カウフマン(アルヴァーロ)、シドヴィク・デジエ(カルロ)
 
④ベルサイユ・ロイヤルオペラ 「ダナオスの娘たち」(サリエリ)
 これさっぱり分かりませんが何か面白そう。
Medici TV 11/28(木) 4:00pm(JST翌0:00)
クリストフ・ルセ(指)、オリヴィエ・シュネーベリ(演)
  Judith Van Wanroij (Hypermnestre) Tassis Christoyannis (Danaüs) 
Philippe Talbot (Lyncée) Katia Velletaz (Plancippe) Thomas Dolié (Pélagus) 
 
気付いたのはこんなところです。
 
 (注)11/ 26訂正  ロイヤル・オペラハウス「パルジファル」はラジオでしたので削除しました。すみません。
 

名古屋二期会 「セヴィリアの理髪師」

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2013.11.30(土) 17:30 愛知県芸術劇場大ホール
出演(12/1も別キャストで公演)
アルマヴィーヴァ伯爵:中井亮一
バルトロ:水谷和樹
ロジーナ:やまもとかよ
フィガロ:澤脇達晴
バジリオ:灰塚弘、ベルタ:森本ふみ子 ほか
名古屋二期会合唱団、オペラ管弦楽団
指揮:園田隆一郎
演出:中村敬一
 
ロッシーニのオペラが演目に上がるのは少ないですが、「セヴィリアの理髪師」だけは唯一割に多い方です。しかしロッシーニは歌うだけでも大変なのに、その上面白く演ずるのは至難の業と思います。私の体験でも回数は少ないですが印象に残ってるものはありません。そんな中でこの公演は一番良かったと思うし、特に後半の第2幕は素晴らしかったです。
 
アルマヴィーヴァ伯爵の中井さんはここ数年で急に注目されるようになりました。ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバル「ランスの旅」の出演をきっかけに、今日本で最高のベルカント・テナーと言えます。この夏も佐渡裕オペラで伯爵を歌い喝采を浴びたばかりです。明るく軽く快活に抜けきる声はロッシーニの喜劇にぴったりです。私もそうですがこの人を聴くために馳せ参じた人も多いようです。
 
ところがです。幕が開いた直後これはおかしいと思いました。ちょっと重いし声が出ていない。伯爵だけでなくフィガロも、オケまで何となく調子が出ません。1時間40分の第1幕を始めから全力で飛ばすことは出来ないのかもしれません。特に伯爵には終幕フィナーレで大アリアが待ち受けています。しかしさすが中井さんです。徐々に調子を上げ、第2幕は最初から絶好調でした。完璧というわけにはいかないが最後まで歌いきり、大アリアにはすっかり魅せられてしまいました。演技の動きも大きく舞台で一人目立っていました。フィガロの澤脇さんもアジリタの歯切れが悪かったですが、声量があって好演だったと思います。この公演はタイトルから言っても出来栄えから言ってもこのふたりが舞台を盛り上げていたと思います。
 
演出は伝統的オーソドックスなものでした。舞台中央に2階建てバルトロ邸がセットされ、それが回転することによって玄関前になったり、邸のサロンや女中部屋になったりします。鳥かごを大きくしたような造りで上手く出来てると思いますが、これって古いMetの舞台にあったような気がします。ただ2000人の大ホールのことでもあり、歌手が皆正面を向いて歌ってたのにはちょっと気になる時がありました。
 
園田さんはロッシーニを得意にしてて、ジャンルイジ・ジェルメッティとアルベルト・ゼッタに師事したそうで、ペーザロでも指揮した実績があります。変にスタッカートを強調することなく叙情性もある指揮で歌手も歌いやすかったのではと思います。合唱もオケも小編成にもかかわらず迫力のある演奏でした。
 
「セヴィリアの理髪師」は原題が「アルマヴィーヴァ伯爵」でしたから、カーテンコールで舞台に呼び戻される順番はフィガロが最後でしたが、カーテンの前に出てきた時はアルマヴィーヴァ伯爵が最後でした。もちろん一番拍手を受けたのは中井さんでした。
 
来年12月の公演は「こうもり」だそうです。これも演技力が要求される喜劇ですが、ロッシーニよりは易しいのではないでしょうか。キャストの発表が待ち遠しいです。
 
 
 

ジェミティ兄弟  ピアノ・デュオ・リサイタル 「春の祭典」ほか

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2013.12.7(土) 15:00 豊田市コンサートホール
ピアノ
(弟)ファビオ・ジェメティ(シュタインウェイ使用)
(兄)サンドロ・ジェメティ(ベーゼンドルフ使用)
曲目
ストラヴィンスキー:春の祭典(全曲オリジナル版)
ルトスワスキ:パガニーニの主題による変奏曲
ラフマニノフ:組曲第2番 Op17
(アンコール)
バッハ:シシリェンヌ
ミヨー:スカラムーシュより第3曲「ブラジルの女」
ピアソラ/ファビオ・ジェメティ編曲:オブリヴィオン(忘却)
 
今年はストラヴィンスキー「春の祭典」の初演から100年に当たるそうで、そのこともあってかこの秋のベルリン・フィルのプログラムにも入っていました。このピアノ版は管弦楽曲の前に連弾用にオリジナルに書かれた作品です。聴く機会はそうあるものではありません。
 
ジェメティ兄弟は連弾専門のピアニストで以前ベートーヴェン第9のリスト編作を聴いたことがあります。ベートーヴェンの交響曲があまりにも偉大なので、リスト作品といえどもあまり良いとは思いませんでした。今度は連弾用の作品ばかり並べて興味があったので聴きに行きました。
 
使用ピアノは以前と同じシュタインウェイとベーゼンドルフでした。もともとシュタインウェイの音は鮮明、ベーゼンドルフはボケるようなところへ持ってきて、シュタインウェイの弟はノーペダル、ベーゼンドルフの兄はペダルを使っていました。したがってオーケストラにより近い響きが出て高低音の差が大きく感じられ、その意図がよく分かりました。よく合ってはいるのですが2台のピアノの強弱に差が少ない、というより二人共タッチが弱く迫力のある大きな音が出ません。
 
というわけで「春の祭典」はあのデモニッシュな荒々しさが出てなくて随分と大人しい演奏だと思いました。普通ならこれをプログラムの最後に持ってくるはずですが、彼等は豪快な曲よりも叙情的なものの方が向いてるのでしょう。ですから後半の方、特にラフマニノフが軽快さとロマン的美しさがあって良かったです。アンコールの小品がまた素晴らしく、小さいホールで聴いたらもっと魅力が出たのではないでしょうか。それにしても連弾はただ楽しむには良くともそれで人を惹きつけるのは相当難しいと思いました。
 
明るいイタリア人にロシア音楽は向くのかしらとも思いました。二人共光ったオツムにライトがあたって1曲終えるたびに汗を拭っていました。
 

愛知県立芸術大学オペラ公演 ラヴェル 「こどもと魔法」

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2013.12.8(日) 14:00 長久手文化の家森のホール
出演
愛知県立芸術大学大学院1、2年生の皆さん11名と男声賛助2名
同合唱団、管弦楽団
指揮:矢澤定明
演出:飯塚励生
 
毎年レベルの高い県芸大オペラですが今年はレアなラヴェルの作品です。1時間もない短いオペラなので普通は2本立てになるのですが、学生が勉強で歌うのでやむを得ないでしょう。そこで時間稼ぎと言っては大変失礼ですがプレトークで長い解説がありました。
 
ストーリーは子供向けの童話ですが、音楽は色彩豊かで変化の多いラヴェルらしい作品です。主役はこども一人だけ、他は入れ代わり立ち代わりで20もの役があるので、いくつかの役を兼ねて歌うことが多いです。この日はこども役も途中で交代してますから主役はなく、皆で分担し力を合わせてまとめ上げたという感じです。
 
歌唱の上手さは個々には覚えきれませんでしたが、皆さん比較的平均していてよく頑張っていたと思います。演技もなかなか良かったです。声楽家は歌うことが仕事と思ってオペラで芝居が苦手のプロは結構多いです。その点学生であるが故に先生(演出家)の指導を真面目に受けて一生懸命演じてることがよく分かりました。やんちゃな子供や戯れる猫を始め、皆さんが細かな振りも気を使ってよく動いていました。
 
オケは各トップに先生が入ってきちんととした演奏でしたし、合唱も男女バランスが取れて素晴らしかったと思います。また舞台装置がメルヘンチックでとても綺麗、普通の公演と比べても遜色ない造りでした。それ以上に工夫されてたのが衣装の方です。何せ出てくる姿が人間でない動物とか茶碗ですから、その辺にあるもので間に合わせることができません。ヌイグルミではありませんが、動物たちは冠と袖の形、全体の色合いで役がわかるようになってました。カップとポットの衣装が面白かったです。
 
今回の公演は特定の誰かが引っ張って舞台を盛り上げたというのでなく、全員が結束した総合力の成果です。「こどもと魔法」というオペラも一般の人に楽しく見てもらうにはどうかと思いますが、大学教育の観点からすれば良い選択だったのではないでしょうか。
 
最後に一つ日本語上演について注文です。オペラは原語で歌って字幕をつけるべきだと思います。言葉に合わせて音符がつけてあるものを言葉を変えたら当然不自然になります。一歩譲ってオペラを大衆にと考えるならその日本語が聞き取れなくてはいけません。残念ながら何を言ってるかほとんど分かりませんでした。これでは全く意味のないことになってしまいます。再考して欲しいと思います。
 
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追)
7日(土)も別キャストで上演されました。
 
 

後藤龍伸指揮 名古屋音楽大学オーケストラ 定期演奏会

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2013.12.18(水) 18:30 愛知県芸術劇場コンサートホール
曲目
ヴェルディ:「アイーダ」より 凱旋行進曲
ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」より 愛の死 (ソプラノ:基村昌代)
ジェズアルド/後藤龍伸:5声のマドリガル第6巻より
              1.もう行きます 2.私はただ溜息をつくだけ 3.私は身を焦がす、あなたゆえに               4.私は死ぬ、ああ、私の悲運ゆえに
ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」
(アンコール)
ウォルトン:スピットファイアー プレリュード
 
基村さんのイゾルデを聴こうと出掛けたのですが大変なハプニングが起きてしまいました。歌ってる途中に声が聞こえなくなったと思ったら、突然ふらふらっと前に倒れ舞台から落ちてしまいました。今朝FBに本人のメッセージがあり大事に至らなかったと知ってまずは一安心です。十分に静養され早く回復されることを祈ります。
 
名音大オケがほとんど女性だけということは予想できますが、管がすごく多いんですね! 弦が8、6、4、7、4の編成なのに管の楽員が随分と多かったです。教育目的からそれに見合うプログラムにしたのでしょう。
 
指揮の後藤さんは名フィルのコンマス、日本センチュリーんのコンマスも兼ね、名音大の教授でもあります。作曲もされるので3曲目は管を数多く使った編曲になっていました。
 
「アイーダ」行進曲はオルガン席にアイーダトランペット6本を含むブラスを置いた華やかなオープニングでした。ジェズアルドは没後400年に当たるイタリア・ルネッサンス時代の貴族作曲家だそうですが、5声のマドリガルを管楽器のオンパレードにした面白い曲でした。ブラバンの経験者も多いかと推測しますが、聞苦しいハズレはなく上手いものだと思いました。「運命」をライブで聴くのは何十年振りでしょうか。ベートーヴェンの素晴らしさを改めて認識させてくれた好演でした。後藤さんの全くオーソドックスで何も変わったことをしない指揮が良かったのだと思います。
 
最近のアマオケはもうプロと変わらないように感じます。練習にかかる日数が違うだけで、少なくとも本番で味わう音楽の感動度合いではプロ・アマ関係なくなりました。この名音大の演奏も女性が多く弦が少ないこともあって、ちょっと大人しい感じはするものの大健闘の良い演奏でした。
 
今年のコンサート通いは多分これでお仕舞です。28日(土)にNCOの「フィデリオ」がありますが、年末慌ただしく多分行けないでしょう。
 

あけましておめでとうございます

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ブログをご覧いただいてる皆様、
あけましておめでとうございます。
旧年中は思いもかけず多くの皆様にお越しいただき誠にありがとうございました。
そんなに多くのコンサートに出掛けるわけにはいきませんが
これまでのスタイルを踏襲して少しずつ感想を書いていきたいと思っています。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
 
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年末年始に観たTVオペラほかの感想

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例年盆と正月は家で過ごすことになっているのでこの間はTVなどを観ることが多くなります。今度もNHKのスカラ座特集や恒例のニューイヤー番組、それにウェブでかなり集中的にまとめて観ることができました。極く簡単に感想をまとめておきます。
 
先ず最も注目した今シーズンスカラ座開幕公演の「椿姫」ですが、ダムラウの歌唱以外は全く期待はずれでした。彼女は産後で肺病のやつれた身体には見えませんでしたが、声にふくらみが増してもう独り舞台の感がありました。(と言ってもベチャワがあんなブーイングを受ける事はないと思うのですが) ガッティはバイロイトのパルジファルで最高の指揮だったのに、このヴェルディはスローテンポで重たくちょっとがっかりでした。舞台装置はリアルで一見オーソドックスに見えますが、演技が歌の中身と合っていないのが目立ちました。それに対してオペラの出来としては翌日放送の「ナブッコ」の方が良かったと思います。ヌッチは年の衰えは隠せないが声には張りがあってさすが存在感があります。それにモナスティルスカの悪女振りが凄かったです。
 
一方ワーグナーのスカラ座特集、バレンボイムの「トリスタンとイゾルデ」は古い2007年の開幕公演ですが、バレンボイムの弱音の素晴らしさがよく出た名演でした。それにマイヤーが言うことなしです。それに対して「神々のたそがれ」はあまり好きではありません。理由はテオリンで、彼女の妖艶な声と容姿は私のブリュンヒルデのイメージに合いません。でもNHKがリング4部作を全部放送してくれたことは評価したいと思います。
 
バイエルンのウェブTVが日本向けに時間をずらして再放送してくれたことも大変有難かったです。「影のない女」は気づかず見逃してしまったのですが「運命の力」は観ました。聞くところによるとカウフマンは後に降板したそうですが、ここはちゃんと出ています。チケット確保が難しいほどの人気だそうですが、私はワーグナーは嫌ですがイタオペなら聴いてもよいと思う程度です。演出に読み替えがなく、かなりモディファイした舞台ですがドイツにしては自然に音楽が聴ける普通のものだと思いました。バイエルンにはこれからも日本向けに再放送をしてくれることを大いに期待しています。
 
最後にNHKニューイヤー・オペラ・コンサートについて。今年は初登場の人が随分多いと思いました。それだけに例年に比べ歌唱のレベルが一段と高く熱気が感じられました。中でも中村恵理が特に素晴らしかったです。2007年イタリアへ行った時ボローニャで彼女のムゼッタ降板に出くわし、以来ヨーロッパでの活躍を注意してきました。ロンドン、ミュンヘンと確実に実績を重ね今では藤村実穂子に継ぐ存在となりました。嬉しいことです。その藤村も昨年に引き続きトリを務めました。歌唱はほんとに素晴らしいのですが、オペラ的感情表現がいまいち、それだけに観念的なワーグナー作品は良いのですがほかは上手くともあまり感動しないきらいがあります。下野はオケを鳴らすシンフォニーは良いのですが、オペラの情緒的表現は不得手のようです。プッチーニなど何とかしてくれと思いました。
 
ついでですが正月に映画「ルートヴィヒ2世」を観てきました。真実はともかく一般に言われてることを最大公約数的にひとつの物語に仕立てた伝記作品です。ここでは芸術好きの反戦論者が皇帝になり精神病を患って湖で自殺するまでの出来事をワーグナーとの関係や周辺諸国の政治情勢の中で描いています。医師と共に発見されたのは助けに入った単なる事故ということになっています。息を呑むドラマはありません。
 
これで正月休みは終わりで、明日から普通(と言っても毎日休みですが)のペースに戻ります。
 
 
 

ワーグナー 3つの短編小説

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年が改まってもワーグナーを引きずっています。ワーグナーは自ら台本(それも韻を含んだ詩)を書いた恐らく唯一の作曲家ですから文学者、評論家でもあります。評論の方は有名で全集にもなっていますが、短編小説を3つ書いてることはあまり触れられません。それは小説の形をとった評論という内容の所為かもしれません。
 
それはともかくその3篇は①「べエトオヴェンまいり」、②「パリに死す」、③「幸福な夕べ」(岩波文庫、高木 卓訳)で、パリの生活に困窮していた時に書かれたものです。この中に出てくる主人公「R」は架空上の人物ですがもうひとり出てくる「私」と同じく両方共ワーグナー自身です。
 
①の「べエトオヴェンまいり」はワーグナーが崇拝するベートーヴェンを「R」がウィーンに訪問する時の興奮を描いていますが、勿論これは事実と無関係な想像上の物語です。他の2編はいずれも「R」と「私」の対話になっていますが、②は「R」が芸術の神聖を主張しつつも現実に失望して静かに死んでいくという、オペラとも共通するところがあります。③は完全な評論といってもよいと思います。
 
小説として読んで面白いのは「ベエトオヴェンまいり」だけです。他は哲学的芸術論でワーグナー特有の理屈っぽい言い回しで読み易くはありません。
 
因みにこの文庫本は1943年の戦時中に初版が発刊されたもので、HPによれば現在増刷の予定がありません。古書で入手するか図書館を利用するしかありませんが、ワグネリアンには一読の価値があると思います。
 
 

クリスティアン・ゲルハーヘル バリトン・リサイタル~シューマン歌曲集 

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2014.1.12(日) 15:00 電気文化会館 ザ・コンサートホール
ゲロルト・フーバー(ピアノ) オール・シューマン・プログラム
曲目
6つの歌曲 Op.107
詩人の恋 Op.48
ゲーテ「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集 Op.98aより
   竪琴弾きの歌、涙とともにパンを食べたことがないものは、孤独に身を委ねると、扉のそばへしのび寄り
メランコリー Op.74-6イメージ 1
哀れなペーター Op.53-3
心の奥深くに痛みを抱えつつ Op.138-2
悲劇 Op.64-3
隠者 Op.83-3
(アンコール)
ミルテの花より 君は花のごとく Op.25-24
「12の詩」より 秘めたる涙 Op.35-10
 
今年初のコンサートはシューマンばかりを集めたドイツ・リートのリサイタルでした。クリスティアン・ゲルハーヘルには以前から関心がありましたが、それは普通オペラで名を売ってからリートを歌うのに、この人は初めからリートで認められた珍しい歌手だからです。ボストリッジもこの仲間に入るのではと思いますが、二人とも医学・哲学とか歴史といった音楽以外を専門として勉強してきた点でも共通しています。魅力ある声だけでなくそういう経歴も面白いと思います。
 
それにシューマンは私にとってその良さがしっくり感じられない作曲家です。誕生日が同じなのでもっと親近感を持たなければと思っているのですが、その中ではプログラムにある歌曲集「詩人の恋」はシューベルトについで好きな曲です。
 
ゲルハーヘルのリサイタルを生で聴くのは初めてでした。率直なところ「歌曲でこんな大きな声を出すのか」というのが第1の感想です。特に前半の「詩人の恋」までそう感じました。ですから私としては後半の方が情感が深く落ち着いていて良かったように思います。400人の小ホールという所為もあると思いますが、広がろうとする声が箱に押しつぶされてるような響きがしました。でも厚みのある豊かで美しい声ですし、如何なる時も端正で崩れないのは凄いと思います。妙に抑揚をつけたり、裏声みたいになったり、声質が変わってしまたりといったことがありません。その意味で全くオーソドックスです。詩情はあっても情緒的でないと言えばそうですが、そこはオペラでなくリートと考えなければいけないと思います。
 
以前マーラーを聴いた時と印象が違ってましたので、10年ほど前に録音されたCD「詩人の恋」(ピアノも同じ)を聴いてみました。同じ土俵で比較してはいけませんが、こんなに声を出しておらずソフトな感じがしました。或いはもっと大きなホールで聴いたら違った響きがしてもっと良かったのではないでしょうか。
 
シューマンの歌曲はピアノが単なる伴奏でなく独立して弾くところが結構あります。フーバーのピアノは歌のところでは決して出しゃばらず、ピアノ・ソロとなると音量も表現力も独自性が出てとても素晴らしかったです。
 
東京と名古屋だけのリサイタルでしたから遠くから来た人もいて会場は満席。終演後は並んでサインをもらいました。写真の上方小さくミミズが這いずったようなのがゲルハーヘルです。絶対に読めないし芸術家だから認められるサインですね。
 
 

吉野直子 ニューイヤー・ハープ・リサイタル

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2014.1.18(土) 14:00 東郷町民会館ホール
曲目
レスピーギ/グランジャニー編:リュートのための古風な舞曲とアリアより シチリアーナ
パッヘルベル/マクドナルド&ウッド編:カノン
バッハ/オーウェンズ&吉野直子編:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番BWV1004より シャコンヌ
ヘンデル:ハープ協奏曲 変ロ長調 作品4-6(HWV294)
ドビュッシー/ルニエ編:2つのアラベスクイメージ 1
トゥルニエ:ジャズ・バンド 作品33
グリンカ:夜想曲
グランジャニー:コロラド・トレイル 作品28
ドビュッシー:ベルガマスク組曲より 月の光
ピエルネ:アンプロンプチュ・カプリース[奇想的即興曲]
(アンコール)
ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女
 
 
ハープのソロ・リサイタルは極めて少ない。デュオとか室内楽では登場する機会も割にありますが、私の体験でも多分1~2回だと思います。曲も少なければ、ハーピストも少ないし、それに楽器の運搬が大変ということもあると思います。世界に誇る吉野直子さんが小さな町に来るとあって、友人にこんな機会はもうない誘われ聴きに行きました。
 
プログラムの前半はバロックの有名な曲ばかり。その音色の美しいことったら! 何と柔らかくふくよかで上品なことか! 1音1音は明確なのに極めて滑らか、ドナウの水が流れるようです。それでいて単調にならないところが流石です。
 
後半はちょっと趣が変わってハープの音の素晴らしさを引き立てるような曲が並びました。感じたことが2つあって第1に、アンコールを含めてドビュッシーが3曲いずれもハープのために書かれた曲でないのに、ドビュッシーとハープは本当に相性がいいと思います。第2に、ムードでなくハープの音を100%活かすにはやはりハープのための楽曲には敵いません。(トゥルニエ、グランジャニー、ピエルネ) ペダル操作もかなり頻繁で難しそうに見えましたが、親しみやすさは少ないけれどもハープ音楽としてはこちらの方が面白いように思いました。
 
東郷町民会館は600人の多目的ホール。適度な響きで聴きやすかったです。ただ携帯が鳴ったり、拍手が早かったりして雰囲気的にかなり気になりました。(ある程度は我慢しなければと思いはするものの)
 
それはともかく世界の音楽界でトップを走る日本の演奏家には女性が多いですね。一般論ですが音楽は理屈でないから女性の方が感性に優れているのでしょうか。それとも単に演奏を職業に選択できる社会環境の違いでしょうか。こういうこと調べた人は誰かいますか?
 
 

ラデク・バボラーク  ホルン・リサイタル

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2014.1.19(日) 15:00 豊田市コンサートホール
曲目(ピアノ:菊池洋子)
ベートーヴェン:ホルン・ソナタ ヘ長調 OP.17イメージ 1
シューマン:アラベスク ハ長調 OP.18 (ピアノ・ソロ)
ケクラン:ホルン・ソナタ OP.70
シューマン:3つのロマンス OP.94
プーランク:即興曲第15番「エディット・ピアフを讃えて」(ピアノ・ソロ)
バルトシュ:エレジーとロンディーノ
コーガン:(CHABAD)によるハシディック組曲
(アンコール)
田中カレン:「魔法しかけられたしかけられた森」より第2楽章(初演)
マイケル・ホーヴィット:「サーカス組曲」より
              Ⅰマーチ、Ⅱ象、Ⅳ空中ブランコ、Ⅴピエロ
 
 
昨日に続いて本日も珍しいホルン・リサイタルです。私も初めてでした。いつもと違ってブラス・バンドで吹いてると思われる学生が前の方の席に陣取って聴いていました。
 
もう見事と云う他ありません。プロオケでもはずすことがよくあるホルンなのにバボラークを聴いてるといたって簡単と思えてしまいます。強弱緩急の急激な変化も自由自在、それにも増して魅力なのは美しく柔らかい音色で歌わせることです。
 
バボラークはチェコ生まれ。チェコとウィーンのオケは音色が似ていると言われますが、この人のホルンもそんな感じを受けました。フレンチ・ホルンとウィンナ・ホルンの違いはあっても、また彼がベルリン・フィルのソロ奏者であったにもかかわらず、少なくともベルリン・フィルよりもウィーン・フィルに合ってるように思いました。それにモーツァルトの得意な菊池さんとも非常によくマッチしていると思いました。
 
彼のホルンの音色を堪能するならゆったりした叙情的な曲の方が向いてると思いますが、プログラムもそのように組まれていました。しかしそれだけではちょっと退屈してきたと思っていたらお仕舞の方でテンポの速い曲が入り、特に最後のコーガンの組曲は凄かったです。アンコールの「サーカス組曲」などブラバンの学生たちへのサービスみたいでしたし、バッグにサインをもらってた学生もいました。
 
聴き逃した人は今月24(金)、25(土)と県芸コンサートホール、名フィル定期でR.シュトラウスの協奏曲を演奏しますので関心があれば聴いてください。
 
 

椎名雄一郎 オルガン・コンサート ~バッハ事始め

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2014.1.24(金) 11:30 豊田市コンサートホール
曲目
オール・バッハ・プログラム
トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
「最愛のイエスよ、われらここに集まりて」 BWV731
「目覚めよと呼ぶ声あり」 BWV645
小フーガ ト短調 BWV578
3つのコラール編曲「いざ来ませ、異邦人の救い主よ」 BWV659-661
パッサカリア ハ短調 BWV582
(アンコール)
小フーガ ト短調 BWV578
 
豊田市コンサートホールの先代オルガニスト椎名さんが久し振りに豊田に帰ってきました。今や日本のオルガニスト第1人者として国内外で活躍しています。特にバッハにかけてはオルガン作品全曲の連続演奏会が進行中、当初カザルスホールで始まりましたが、残念ながらこの名ホールが閉鎖になり、現在東京芸術劇場大ホールで行われています。
 
今回はランチタイム1時間の短いコンサートでしたが、プログラムは得意のオール・バッハ、有名な3曲にコラールを挟んで演奏されました。
 
オルガンはまずここでしか聴かないので、そのことがかえって演奏の違いが分かり易いように思います。これまでの経験から言うとオルガンの演奏は、そこの楽器を熟知して如何に使いこなすかで決まってくるようです。著名なオルガニストが来訪しても必ずしも良い演奏にならないことが多々ありました。その点椎名さんはここのオルガン設置段階から関わってきたのでこれ以上知りつくした人はいないです。
 
何年振りかで聴いた椎名さんは素人の私が言っては失礼ですが随分成長されたように感じました。教会のオルガンでなくコンサートホールの演奏家として自己の主張が出ていたように思いました。バッハの神がかった壮大さとか神秘性でなく、それを受け止める人間の気持ちの方を表しているようでした。つまり神への帰依とか、直向きな敬虔さのようなものを感じました。大迫力や朦朧さは無く1音1音が明確でスマート、曲の構成や美しさをよく出していたと思います。ですから大きい音より小さい音を大事にして、例えば小フーガはリコーダーの音で弾いていました。(もっともアンコールでは普通聴くような演奏でしたが)
 
普通の半分の時間でしたがオール・バッハの、しかも崇高な曲を集めたプログラムとしては変化のあるものでした。好き嫌いはあると思いますが、バッハの音楽を静かに味わうことの出来る良いコンサートでした。 尚、東京の全曲連続演奏のCDは順次リリースされています。
 
1月はリサイタルばかりでしたが来月からはオペラが中心になります。
 
 

クラウディオ・アバド追悼特集の映像

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アバドが亡くなって1週間になりますが方々で哀悼の記事が出ています。私が実演で聴いたのはベルリン・フィル来日の1回きりで、もうその頃オペラをほとんど振らなくなってからです。DVDを観るとスカラ座、特にロッシーニの時など実に素晴らしいと思います。
 
そのスカラ座での哀悼演奏会の模様がYouTubeに出ています。バレンボイムがスカラ・フィルとベートーヴェン「英雄」のアダージョを演奏しています。涙なくして聴かれません。スカラ座前広場を溢水の余地もなく埋め尽くした群衆を見ると改めてアバドの偉大さと人気を感じます。
 
 
無論ベルリン・フィルもアバド追悼の特集を提供しています。通常有料でウェブ発信しているディジタル・コンサート・ホールで多くの過去映像を無料で公開しています。一部しか視聴してませんが、東京公演の「火の鳥」組曲とかガラ・コンサートの「ファルスタッフ」抜粋ほかなどとても良いと思います。登録すれば「スペシャル映像」のところで観られます。
 
それからNHKも特集番組を放送するとのことです。
2月2日(日) 21:00~ Eテレ「クラシック音楽館」
2月10日(月) 0:00~ BS「プレミアムシアター」
詳しい内容はわかりません。
 
合掌 スカラ座広場の人々と共に
 
 

バッハアンサンブル名古屋10周年記念 「ヨハネ受難曲」

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2014.2.2(日) 17:00 名古屋市民会館大ホール
出演
福音史家:大島 博
イエス:今泉仁志
ピラト:森寿美  ほか
合唱・管弦楽:バッハアンサンブル名古屋
指揮:李 善銘
 
バッハアンサンブル名古屋はオケと合唱のアンサンブルでプロ・アマ合同で編成されています。無論人数的には圧倒的にアマが多く要所をプロがおさえる形になっています。主にカンタータを演奏していますが、今回結成10周年記念として大曲「ヨハネ受難曲」を取り上げました。
 
宗教曲の演奏スタイルとしては大別して2つあります。ひとつは教会の音楽として厳かに演奏するのと、それには関係なく純粋の音楽として劇的効果を狙うものです。今回の演奏はどちらかというと前者の方に近いと思いました。
 
指揮者の李さんは名フィルのヴィオラ奏者を長く務めた方で、小林道夫やヘルムート・リリングの下で研鑽を積まれた謂わばバッハの専門家です。音楽は宗教的崇高さまではないけれども外連味のない素朴で優しい演奏でした。
 
2000人の大ホールなのでソロ歌手にはちょっときつかったようです。声が小さかったり無理に出せば崩れたりが多かったように思います。そんな中ピラトの森さんは一番良かったです。2008年長久手オペラ・コンクールの優勝者、その時私は本選会を聴いてます。確かに表現力は素晴らしいけれど上手いという感じは持ちませんでした。さすがその後成長されたし、同時に審査員の先生方は将来性を見抜いておられたのだと思いました。合唱は60名くらい(男声は3分の1)ですが女声合唱がきれいでした。ただコラールは良いとして合唱はもっと激しいところが欲しいと思いました。オケはヴィオラ・ダ・ガンバやリュートの古楽器もあり、ノン・ヴィブラート奏法でオルガンも入った低音が豊かで良かったです。
 
全体の印象としてはもっと小さいホールで各部の音のバランスを考えてやったらよかったのにと思いました。しかしバッハの地元演奏がこんなに人を集めらるようになったのは喜ばしいことです。
 
「ヨハネ受難曲」といえば2003年のイースター4月聖トーマス教会で聴いたことを思い出します。開演のベルもなければ拍手もなし。ただ教会のライトが落ち人々のざわめきが収まると静かに音が鳴り始める。終わりも同じ、誰一人として拍手をする者はいません。しばらくしてライトが灯ると三々五々散っていきます。この後日本のコンサートホールで、終わった途端に拍手をしたり、挙句の果てはブラボーと叫ぶ者までいてどうにも違和感が抜けませんでした。演奏スタイルに2つあると言ったのはこのことで、教会と全く雰囲気の異なるコンサートホールではドラマティックな演奏の方が聴きやすいと最近思うようになっています。
 

佐村河内守 「交響曲第1番HIROSHIMA」は別人作曲

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昨日2月25日朝NHKのビッグニュース。あの佐村河内守のHIROSHIMAが別人作曲というのです。その他十数年前からの作品、「レクリエム」や「ヴァイオリンのためのソナチネ」も別人作曲と報道しています。本人の代理弁護士が明らかにしました。これを受けて現在進行中の佐村河内全国ツアーやCDの販売が停止されるということで影響は大きくなりそうです。
 
「現代のベートーヴェン」とか宣伝が煽り過ぎと感じていましたが、詳細がわからないので軽率な発言は控えなければなりません。
 
一体、別人が作曲というのはどういうことでしょうか?
基本楽曲と構成を提示し、それを別人が肉付けしたか
別人が作曲したものを手直ししたのか
別人が作曲したものを本人名義にしたのか
これにより受け止め方が変わってくると思いますが、はたとえ両者合意の上でもいけないと思いますが、は考えようによって似たような話が他の分野でもあります。
 
例えばモーツァルトのレクイエムは本来未完作品です。それをジェスマイヤーが完成させ、さらに何人もの人が修正していくつも版があります。その上指揮者が編集して演奏することもあります。でもモーツァルト作曲としか言いません。版画でも原画の作者だけで彫師や刷師は表に出ません。逆に学術論文では大した指導もしないのに名前を連ねることもあります。
 
結局本人と別人との間に何かあったと思われますが、当事者以外は何も知らされなかった方が良かったと私は思います。作品自体はすごく素晴らしいのですから、このことにより作品が抹消されることは避けなければなりません。当面は演奏を控えざるを得ないにしても、なるべく早く解決して再び登場する日を待ちたいと思います。
 
尚、この別人作曲家は桐朋学園の新垣隆氏と本人が明らかにしました。記者会見があるそうです。

京都南座 西本智実プロデュース 「蝶々夫人」

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イメージ 12014.2.9(日) 14:00 京都南座
座オペラ in 南座
出演
蝶々夫人:佐藤路子
ピンカートン:笛田博昭
シャープレス:折江忠道
ゴロー:中井亮一
スズキ:野上貴子
ケイト:松岡万希
祇園甲部芸舞妓衆、イルミナート・フィルハーモニー
振付:井上八千代
芸術監督・指揮:西本智実
 
歌舞伎劇場でオペラ、祇園の芸妓さんが多く出ると聞き、その上笛田さんと中井さんが出演とあっては行かないわけにはいきません。京都なら比較的楽に日帰りができるので気持ちにゆとりを持って出掛けられます。
 
この公演は一言で言えば誠に美しい観るホール・オペラでした。特に出だしは見事でした。拍子木の音で定式膜(歌舞伎舞台の引幕のこと)が開くと「さくら、さくら」で芸妓さんが舞っています。舞台が廻り、するとしだれ桜と竹をバックに上手半分にオケが並び、下手に障子が何本かあってそれが黒御簾(三味線など奏者が入るところ)とつながっています。だから演技は花道と下手側半分を使って行われます。
 
演出で特に美しい場面を二つ三つ挙げるなら、最初の見せ場はもちろん蝶々さんが芸妓を従えて花道から登場する場面です。天井席では少ししか観られなかったのが残念ですが、選ばれた芸妓さんたちは皆きれいな方ばかりでした。蝶々さんもとてもきれいで着物の着こなしとか仕草が様になって外国人には絶対できないと思いました。それと最後の場面、蝶々さんが自刃する時スズキは子供を連れて部屋を出るのが普通です。ところがここでは膝を紐でからげた蝶々さんの傍らで座を正し見届けています。武士の娘らしく凛とした姿に感動を覚えました。この時の赤い照明も非常に効果的でした。もう一つ素晴らしいのは影絵のような造形のつくり方です。障子に初夜の衣替えを投影したり、或いは障子の前でピンカートンを夜通し待つ蝶々さんの姿とかは、ほんとに見事で奥ゆかしさがあって見とれてしまいました。このあたりは舞踊の要素が入ってるようです。
 
この公演は一部省略がありました。神官とかヤマドリとか登場しませんし、合唱団も入っていません。全幕公演とはいえ本格的なフルオペラを期待した人にはちょっと物足りなかったかもしれません。でも観る分には問題なく、むしろすっきりして良かったと思います。
 
歌手は若手の実力者を中心に揃っていました。笛田、中井、松岡のお三方は2年前八王子でも西本さんの指揮で歌っています。蝶々夫人の佐藤さんは関西で活躍してる方で私は初めて聴きました。花道から第1声が聞こえた時これは凄い声だと思いました。しかし劇が進行するにつれ蝶々さんの気持ちの変化、可愛らしさ、一途な想い、不安、絶望、心の強さなど、声の強弱でない心情の表現力は今一歩かと思いました。要するに泣けてこないのです。笛田さんも他の人に合わせたような感じで、何時もの声の張りとか感情表現がちょっと弱かったように思います、これに対して脇は皆さん良かったと思います。折江さんはベテランらしく人格者のシャープレスを、野上さんも落ち着いた控えめなスズキを歌っていました。一番芝居上手だったのはゴローの中井さんで、腰巾着らしい演技と軽い歌い方が良かったです。
 
気になったのはオケの方です。八王子も同じオケでしたが今回はその時より多分人数が少なかったのではと思います。その上響かない劇場はプッチーニには難しいと思いました。情緒の塊みたいなプッチーニなのに、如何にもドライでしっとり感がありませんでした。良きにつけ悪しきにつけ音がそのまま正直に出てしまうのでフレーズにもっと抑揚をつけたら良いのにと思いました。
 
ということで音楽的には少し不満が残るものの観て楽しむには最高でした。それは客席も同じ。1000人の南座は満席でオペラ・ファンだけでなく歌舞伎の常連さんも多かったように見えました。華やかな着物姿が非常に目立ちましたし、芸妓さんの姿もちらほら見え、さすがは京都で、南座だと思いました。何か別世界に来たようで、それも目の保養になりました。
 
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リサ・バティアシュヴィリ ヴァイオリン・リサイタル

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2014.2.15(土) 17:00 電気文化会館ザ・コンサートホール
出演
ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ
ピアノ:占部由美子
曲目
シューベルト:ソナティネ 第2番 イ短調 D385
シューベルト:華麗なロンド ロ短調 D895
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 op.30-2
(アンコール)
ブラームス:ハンガリー舞曲集 第2番
クライスラー:愛の哀しみ
 
赤紫のシックなドレスでステージに現れた時ふと百済観音を連想しました。それほどスリムで美しい立姿でした。もちろん音楽の方はそれ以上に強く訴えかけてくるものがあり凄く感動しました。
 
体調不良ということでプログラムを一部変更、予定のバッハ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番を取りやめての演奏でしたが、そんな不満を感じさせませんでした。バティアシュヴィリはきめが細かく、曖昧さが全くなく、無表情になりません。音色は陰翳を帯びて渋いですが、繊細さと力強さを同時に持ち合わせ、情緒に溺れず、知的(理性的とは違う)演奏をする人と思います。
 
最初のソナチネは2曲目以降と比較すると必ずしも完璧ではなかったようです。しかしシューベルトらしい美しい歌があり、特に第4楽章は何となく物悲しいのがとても良かったです。次のロンドは圧巻! 楽器の所為もあるかもしれませんが、色彩的に華麗でないにせよ音楽的には終始緊張感に溢れた迫力に圧倒されました。この曲は繰り返しが多くややもすると退屈することがあるのでが。最後はベートーヴェンのハ短調。彼女にはこういう厳しい曲が向いてるようです。フィナーレでは女性とは思われない劇的盛り上がりを見せました。途中20分の休憩がありましたがアンコールも2曲、どこが不調かと思う充実のリサイタルでした。ピアノ(ブランド名がわからなかった)も渋い音で呼吸がぴったり合っていました。
 
東京ではニューヨーク・フィルのショスタコヴィッチが大評判になってますが、この演奏を聴いて想像できるような気がします。前の日に浜離宮で招待者だけのリサイタルがありましたが、一般公開はこの1回限り。名古屋のリサイタルでは珍しく完売でした。
 
 

バイエルン国立歌劇場ウェブTV 「皇帝ティートの慈悲」

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2014.2.16(日) 19:00 バイエルン国立歌劇場日本向けストリーミング
配役
ティート:トビー・スペンス
ヴィテリア:クリスティーネ・オポライス
セスト:タラ・エロート
セルヴィリア:ハンナ=エリザベス・ミュラー
アンニオ:アンジェラ・ブロワ
プブリオ:タレク・ナズミ(Tareg Nazmi)
バイエルン国立歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:キリル・ペトレンコ
演出:ヤン・ボッセ
 
ネット回線を光に変えたので大分きれいに見えるようになりました。でもHD映像はTVのようにはいきません。タダで観るのだからそんなに文句は言えませんが。
 
さてバイエルン歌劇場今シーズンの新制作、ボッセ演出の「皇帝ティートの慈悲」です。観た感想を一言で言えば、コスプレ的演出は好まないが歌手はなかなかの好演といったところでしょうか。
 
演出に面白いところがありました。音楽が鳴る前幕が開いてから、オケがピットへ、合唱は両側プロセニウム席に入ってきます。合唱は舞台衣装をつけていますが、オケまで白シャツ、これが2幕では黒シャツに変わります。1幕の舞台は白、2幕は黒が基調になってますから色彩的に合わせています。ピットでチェンバロを弾きながら歌ったり、クラリネットが歌手と並んでアリアを吹いたりします。つまりオケと舞台が一体になって、これはなかなか良いなと思いました。でもあとがいけません。時代を特定しないのは別に抵抗ないのですが、あのどぎついメイクや衣装には嫌悪感を覚えてしまいます。セストはハイヒールを履いてるしアンニオは異常に長い髪を垂らしたりして、同性愛者でないかと思ってしまいました。私の時代感覚がずれてるかもしれませんが、その種の趣味は全くないから生理的に受け付けません。カーテンコールでブーイングがなかったから、ヨーロッパではそんなにひどくないということでしょうか。
 
歌手はスターがいないものの皆立派な歌いっぷりでした。トビー・スペンスは声も背も大きく見栄えがするのでこれから評判がついてくると思います。ヴィテリアのクリスティーネ・オポライスは性悪な女らしいきつい声で感情をぶつけるように歌って良かったですが、フィナーレで改心する時は歌い方をちょっと変えて欲しいと思いました。セストはこのオペラ一番の主役ですが、タラ・エロートは心の葛藤をよく表現してました。この人が一番良かったと思いますが、他ではアンニオのアンジェラ・ブロワの声も気に入りました。
 
ペトレンコの指揮はこういう演出では合っていますがモーツァルトの美しさはあまりないですね。フィナーレの迫力などワーグナーかと思ってしまいました。
 
最後に録画上の苦情を。集音マイクが少ないのか声が急に大きくなったりします。また黄色の字幕がバックに沈み込んで読みにくいこと。NHKならもっとうまく処理するでしょうけれど。
 
舞台に様子はこちらで観られます。
 
 

東京二期会 「ドン・カルロ」(イタリア語5幕版)

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2014.2.23(日) 13:00 東京文化会館大ホール
出演
フィリッポ2世:ジョン・ハオ
ドン・カルロ:山本耕平
ロドリーゴ:上江隼人
宗教裁判長:加藤宏隆
エリザベッタ:横山恵子
エボリ公女:清水華澄
テバルト:青木エマ
修道士:倉本晋児
レルマ伯爵:木下記章
天よりの声:全 詠玉
二期会合唱団、東京都交響楽団
指揮:ガブリエーレ・フェッロ
演出:デイヴィッド・マクヴィガー
 
開幕前に主催者がステージに現れた。これは何かトラブル発生と思ったら、安藤赴美子がインフルエンザで出演できなくなり代って前日歌ったばかりの横山恵子が務めるとのアナウンスがありました。長丁場の連日はちょっと厳しいのではと思いましたが、そんな心配は不要でした。
 
演出、指揮、歌手、合唱、オケと総てが高いレベルで揃った稀に見る素晴らしい公演でした。初めての日帰り鑑賞でしたが、疲れも感ぜず思い切って行ってよかったと思いました。
 
まず演出。「ドン・カルロ」は色恋沙汰だけでなく、政治、宗教など多くの話が入り込んでいて何を言わんとするかはっきりしないところがあります。それはフィナーレでカール5世の亡霊が出てカルロを引っ張り込むというト書に象徴されていると思います。しかしこの演出ではドン・カルロを処刑するという明確な形をとっていました。それはストーリーの主軸を宗教問題に置いて、ローマカトリック教の絶対的権力の前ではそれに反する行為は一切容赦しないという悲劇に仕立て上げています。ですからエリザベッタとカルロの恋愛問題などは脇の話になっています。
 
話が暗ければ舞台も暗く、照明は暗いし、衣装もほとんど黒、フィリッポ2世の部屋のカーテンも黒です。舞台装置は徹底して直線的で高さのあるスケールの大きいものでした。終始ひとつのセットで若干変更するだけですがシンプルによく考えられていると思いました。フランクフルト歌劇場との提携公演ということですが装置衣装などそっくり持ってきたのでしょうか。
 
オペラの中心は歌手です。フィリッポのハオさんは中国人ですが歌唱も素晴らしければ声量も凄い。特に4幕、苦悩の独白とエリザベッタへの罵倒では両極端の感情暴露が見事でした。長身で格好が良いですがちょっと重さが足りないように感じます。しかしそれは宗教裁判長に押さえつけられている役柄上のことでしょう。カルロの山本さんは初めて名前を知ったテノールです。まだ29歳の若さと聞いて驚きましたがこの人は楽しみな逸材です。1幕、相手のエリザベッタ役が急遽交代となり呼吸が合わない感じがしましたが2幕から好調になってきました。この人イケメンで声も良いのですが惜しいかな小柄なのでその点オペラでは損します。一番素晴らしかったのはロドリーゴの上江さん。この人は実に上手いです。名古屋でナブッコを聴いてすっかり大ファンになりましたが、このロドリーゴも毅然として言うことなしです。クライマックスの二重唱も音楽の作りがよく感動しました。
 
エリザベッタの横山さんは歌い込んだ役とは言え連日の出演は大変だったと思います。しかしそんなことは微塵も感じさせない大熱唱でした。特に5幕のアリアは感動的でした。横山さんに変わったことが或いはこのオペラの深刻さを増してより素晴らしくなったかもしれません。そして清水さんは一番難しい役エボリ公女、これも素晴らしかったです。2幕で庭に集まった貴婦人を前に華やかに歌うと、次は3幕でエリザベッタへの激しい嫉妬とカルロへの復讐を、それから4幕でエリザベッタへの懺悔を、最後に後悔とカルロを救い出す決意といった具合に、さまざまな場面の心情を表現しなければなりません。クンドリーで見せた清水さんの外向的歌唱とは正反対に、ここでは自身への内向的な投げかけをしてるようでした。そうでなければ3幕などもっと激情的に歌ったと思います。しかし考えてみれば演ずるのは同じエボリ公女ひとりです。その都度それぞれ全く違い歌い方をすればきっと作為的に感ずることでしょう。恐らく清水さんはその辺を考えて深く重く歌ったのだと思います。
 
宗教裁判長の加藤さんはちょっと軽いが好演だったと思います。その他全員の方々が本当によく頑張っていました。とにかくこれだけ揃って今一物足りないと思う人が一人もいなかったことがむしろ驚きでした。
 
合唱とオケも忘れてはいけません。合唱はただ歌うだけでなく、幾何学的に美しく見せるため統率された動きが要求されていました。これも注目すべきと思いました。それとオケがドラマの内容に相応しく重量感のある良い音を出していましたし、と同時に歌手を邪魔するようなことはありませんでした。
 
この音楽を指揮したガブリエーレ・フェッロを賛えなければいけません。要所要所でフレーズを長く伸ばしたり、強弱を際立たせたりして重厚で劇的な盛り上がりを作っていました。もう長老の域に達していますがオペラのドラマティックな指揮にまた立って欲しいと思いました。
 
このような充実の公演が若手の世代で出来たことはその成長ぶりを頼もしく思います。大満足で新幹線に乗りました。
 
 
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