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ワーグナー 「パルジファル」(コンサートオペラ)名古屋公演

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2013.8.25(日) 15:30 愛知県芸術劇場コンサートホール
出演
パルジファル:片寄純也
アンファルタス:初鹿野剛
グルネマンツ:長谷川顯
クンドリー:清水華澄
クリングゾル/ティトゥレル:大森いちえい
小姓/花の乙女/アルトの声:三輪陽子
花の乙女たち:基村昌代、杉浦愛美、加藤愛、大須賀園枝、船越亜弥
聖杯騎士:堀内大輝、滝沢博
小姓たち:上井雅子、大久保亮、神田豊寿
モーツァルト合唱団、ワーグナー・プロジェクト名古屋管弦楽団
指揮:三澤洋史
 
奇蹟、まさに驚愕の奇蹟が起こりました。アマチュアがこれほど素晴らしい感動を与えてくれるとは!!
 
プログラムを見て知ったのですが、日本における「パルジファル」の上演実績は過去わずか9回しかないそうです。もちろん全部プロの演奏で、内2つは海外の引越公演です。これをアマチュアが挑戦するというのですから大冒険と言えます。名古屋のアマオケ合唱は昨年合同で「千人の交響曲」を演奏して話題になりましたが、こういう基盤があるからこそ出来たことと思います。それにしても指揮者三澤洋史氏の苦労は並大抵でなかったと想像しますし、その熱意には頭が下がる思いです。
 
三澤先生は言うまでもなく新国合唱を世界のトップに押し上げた方です。モーツァルト200合唱団とも関係が深く20年にわたって指揮を続けておられます。この日の合唱はこれまでよりまた一段と美しいハーモニーを奏でていました。騎士団の合唱は力強さよりも荘厳さを出すことに注意し、乙女たちの合唱は流れるように美しく歌っていました。
 
オケは期待をはるかに上回る大熱演で、この長丁場も弛れるところがありませんでした。三澤先生の的を得た必死の指示に一生懸命ついていこうとする楽員の熱気がよく伝わってきました。弦が少ないとか技倆の欠点を補って余りある感動的演奏になりました。アマチュア演奏でこういうことはよくあります。
 
アマチュアの頑張りに負けてはならじとソリストたちも熱が入っていました。片寄さんは昨年の二期会でパルジファルを演じたヘンデルテノールです。強弱の変化が大きい力強い声で、例えばクンドリーのキッスで目覚めて「アンファルタス」と叫ぶところの迫力にはびっくりしました。初鹿野さんは感情移入が素晴らしいドラマチックな歌唱でした。また長谷川さんはちょっと体調が完璧ではなかったようですがふっくらしたいい声の聖人らしいグルネマンツでしたし、クリングゾルの大森さんもいちばんえい格好の魔界の親分でした。
 
しかしそれより凄いのはクンドリーの清水さん。彼女の声には驚きました。ロールデビューということで一層頑張ったかもしれません。1幕は音が全く外れず声がよく通ると思ってましたが、2幕冒頭の地声の叫びからオッと思わせました。その後もこんなに出して大丈夫かと心配するほどアクセル全開で絶好調でした。クリングゾルとパルジファルはそれに引っ張られるかのようになって全く素晴らしい競演となりました。それとは対照的に花の乙女たちのソロと合唱、こちらは実にきれいでした。演技を伴っていないだけに音楽の対比が一層目立ちました。
 
三澤先生が現在望みうる最高の歌手と言われた通り、外国人はもう要らないと思わせる出来栄えだったと思います。
 
コンサートオペラとなってますが、衣装と照明を若干工夫した演奏会形式といった感じでした。ステージの前方にオケ、後方の壇上にソリスト、オルガン席に合唱とバンダという配置でした。しかし譜面台は銀色でしたし、壁にも森を思わせるような銀色の掛物があって、それなりに厳かな儀式らしい感じが出ていました。その上バイロイトを真似て開演のファンファーレがなってから楽員が入ってくるので雰囲気がとても盛り上がったと思います。
 
荘重に長く余韻を残し消灯で幕となりました。カーテンコールでお互いを讃え労いながらも拍手がなかなか止まりません。最後は指揮者がコンマスに合図して解散となりました。
 
この公演は名古屋のクラシック演奏史上、また「パルジファル」の日本における公演史上においても記憶されるべきと思います。まさに最高の奇蹟でした。

NICEオペラ 「コジ・ファン・トゥッテ」@名古屋

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2013.8.31(土) 16:00 名古屋芸術創造センター
出演
フィオルディリージ:渡部 純
ドラベッラ:谷田育代
デスピーナ:橋本千波
フェランド:中井亮一
グリエルモ:塚本伸彦
アルフォンソ:林 隆史
NICE合唱団、管弦楽団
指揮:小森康弘
演出:ダリオ・ポニッスィ
 
名古屋で活躍する第一線歌手を揃えてのオペラ公演です。コジはモーツァルトの中で一番好きなオペラですし聴いた回数も多い方です。今回注目してる歌手、中井さんと渡部さんが出るので期待して出掛けました。2日ある公演の初日です。
 
響きがデッドの6~700名のホールですから声がストレートに聞こえ小規模オペラには向いてると言えます。反面合唱、オケとも10数名そこそこの小編成ではアンサンブルの緻密さが一層要求される難しさがあるのも確かです。その上コジです。アリアを歌ってればそれなりに惹きつけられる悲劇と違って、漫才コンビのように相手の呼吸に合わせるのが大事です。今回難しいことに挑戦したと思います。
 
ソロの中では中井さんの輝く声がダントツによく飛んできました。身振りもこの人だけは様になっていました。他の2人の男声陣塚本さん林さんの歌唱も良かったです。女声陣ではオペラ経験の長い谷田さんが一番かと思いました。渡部さんの曇ったような声はフィオルディリージにはちょっと合わないように思ったし、デスピーナ橋本さんは劇団四季で歌ってるそうですが声が硬いです。そうは言うものの総じてひとりひとりの歌唱はまあ良かったかと思います。ただアンサンブルオペラの要である重唱となると、それぞれの声は聞こえるのですがゴツゴツした感じがしました。もっと響くホールならある程度カバー出来たかもしれません。
 
演出のダニオ・ポニッスィはイタリア人らしい陽気な身振り手振りを要求していました。しかし残念ながら外国人なら普通に出来たかもしれないことも日本人にはついていけない不自然な動きになってしまいました。序曲の時歌わない役者が機敏な動きを見せましたが、歌手たちは合唱も含めて全体に軽快さがありませんでした。
 
小森さんは楽譜そのままというか何だか平坦で生き生きした表情づけがないように思いました。これが全体を支配したか、起伏のない変化に乏しいコジになったように思います。2日目は一変すると良いのですが。
 
今月はもう一つ地元稲葉地オペラのコジがあります。さてどうなるでしょうか。

NHKプレミアムシアター オペラ放送予定

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大雨とともに異常な暑さも峠を越したところでスカラ座を皮切りに秋のクラシック・ラッシュが始まりました。今年はオペラだけでなくウィーン・フィル、ベルリン・フィルなど大物オケも来日するのでこちらもちょっと異常です。果たしてチケットは売れるのでしょうか。スカラ座でも平日はまだかなり残っているようですし、名古屋公演は割引販売をやってるようです。たまにしか行かない人にとっては高額もさして気にならないかもしれませんが、頻繁に通うファンには悩みの種です。
 
幸いNHKプレミアムシアターで注目のオペラ放送が何本もあります。時間はいずれも0時から。
 
①9/9 ザルツブルク音楽祭2013 「ドン・カルロ」
     (指)アントニオ・パッパーノ、(演)ペーター・シュタイン、(出)マッティ・サルミネン、
      ヨナス・カウフマン、トマス・ハンプソン、アニア・ハルテロス、エカテリーナ・セメンチュク
②9/16 ロイヤル・オペラ2013 「湖上の美人」
      (指)ミケーレ・マリオッティ、(演)ジョン・フルジェームス、(出)ジョイス・ディドナート、 
       ファン・デエゴ・フローレス、ダニエラ・バルセロナ、シモン・オルフィラ、コリン・リー
③10/21 新国2013 「コジ・ファン・トゥッテ」
       (指)イヴ・アベル、(演)ダミアーノ・ミキエレット、(出)ミア・パーション、ジェニファー・
       ホロウェイ、天羽明恵、パオロ・ファナーレ、ドミニク・ケーリンガー、 マウリツィオ・ムラーノ
④10/28 スカラ座日本公演2013 「リゴレット」
       (指)グスターボ・ドゥダメル、(演)ジルベール・デフロ、(出)レオ・ヌッチ、ジョセフ・
       カレーヤ、エレーナ・モシュク、ケテワン・ケモクリーゼ、アレクサンドル・ツィムバリュク
 
どの公演のキャストも素晴らしい歌手が出るので聴き逃さないようにしなければ。
 
 
 

あらかわバイロイト 「後宮からの(2つの)逃走」

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2013.9.13(金) 18:30 サンパール荒川大ホール
第1部「ツァイーデ」出演者
 セリム:田辺とおる、オスミン:小野和彦、アラツィム:勝村大城
 ツァイーデ:二宮望実、ゴーマツ:東裕子
第2部「後宮からの逃走」
 セリム&オスミン(同上)、コンスタンツェ:徳武雪子、ブロンデ:鶴田朋子
 ベルモンテ:石川誠二、ペドリッロ:升島唯博
TIAAフィルハーモニー管弦楽団
指揮:増田宏昭、 演出:桜田ゆみ
 
あらかわバイロイトとは大袈裟な名前と思いますが、演奏家育成を目的とする東京国際芸術協会(TIAA)が荒川区とタイアップして行う地域オペラの一つです。これまでワーグナーの作品を中心に取り上げて実績をあげています。
 
4日連続東京オペラ旅行の初日として選んだのはモーツァルトの二つのオペラを一つにしたもの。珍しい「ツァイーデ」も「後宮からの逃走」もトルコの王様が捕えた奴隷を釈放するという物語ですが、ツァイーデ事件から5年後にまた同じような後宮での事件が起きたという設定です。実際は「ツァイーデ」と「後宮からの逃走」の抜粋公演です。
 
1000人のホール、別キャストで4公演という所為か聴衆はわずか2割しかいませんでした。所属会員に舞台経験を積ませることを優先したのでしょうか。それにしても出演者には気の毒でした。
 
舞台装置はステージ奥に宮殿のアーチがあるくらいの簡単なもの。凡庸といえばそうですが地域オペラはこの程度で満足しなければいけません。
 
田辺さんは監督として舞台でも中心的存在感がありました。歌手で印象に残ったのはオスミンの小野さんとアラツィムの勝村さん。小野さんは第1回長久手声楽コンクールで第2位だったとプログラムで知りました。男声陣に比べ女声陣の声はソリストとして弱いなと思いました。増田さんの指揮は温厚です。ただモーツァルトの喜劇にしてはやや軽快さが足りないかと思いました。
 
またこのホールは観やすいけれど音がよくありません。舞台上の声がボケてオケは響かない。むしろ逆の方が良いと思うのですが。
 
ここは地下鉄からかなりあるし、この程度のオペラレベルなら地元で十分なので多分お仕舞になるかと思います。終演後に出演者がロビーに並んで挨拶してくれましたがあまりに少なくて申し訳ない気がしました。
 

ミラノ・スカラ座 「ファルスタッフ」

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2013・9・14(土) 15:00 東京文化会館
出演
ファルスタッフ:アンブロージョ・マエストリ
フォード:マッシモ・カヴァレッティ
フェントン:アントニオ・ポーリ
医師カイウス:カルロ・ボージ
バルドルフォ:リッカルド・ボッタ
ピストラ:アレッサンドロ・グェルツォーニ
フォード夫人アリーチェ:バルバラ・フリットリ
ナンネッタ:イリーナ・ルング
クィックリー夫人:ダニエラ・バルチェッローナ
ページ夫人メグ:ラウラ・ポルヴェレッリ
ミラノ・スカラ座合唱団、管弦楽団
指揮:ダニエル・ハーディング
演出:ロバート・カーセン
 
私が観たのは5回目の最終公演です。今更旧聞になりますが自分の記録のために残しておきます。
 
「ファルスタッフ」はヴェルディ最後の作品です。モーツァルトのコジを好むに似て「ファルスタッフ」は私の最も好きな作品の一つです。どうも歳をとると悲劇より喜劇を好むようになるみたいです。作品が好きな上に今や世界のファルスタッフを独占するくらいの嵌り役アンブロージョ・マエストリと大のファンであるバルバラ・フリットリが出るとあって、これは見逃すわけにはいきません。
 
実によくできた演出でした。時代は今風に変えてありますが読み替えはありません。第1幕はホテルが舞台で、客室~レストラン~ロビーのカフェと場面が変わります。第2幕はフォード邸のキッチン。第3幕は裏が森になってるガーター亭の中庭で、場の設定に違和感が全くありません。各幕の色彩変化も素晴らしく、高級感あふれるシックな色調から明るくカラフルに最後は暗く変わって、目一杯広がった舞台をきれいに見せています。
 
部分的にも面白いところが散りばめられています。第3幕ファルスタッフが川から上がって独り言をいってる場面で、生きた馬を相手に喋っていますが周りの人から見放された背景を表わして良いアイデアと思いました。またその前の窓から洗濯籠を川に投げ込む場面では、覗き込むフォードの顔に本気で大量のしぶきをかけていました。役者も大変ですが年若のカヴァレッティだったからできたことでしょう。
 
登場人物の動きも見事という他ありません。誰ひとりとしてじっとしている人がいません。広い舞台を駆け巡り、テーブルに掛けている時でも手や首が常に動いています。ここまで動いてよく歌えるものと感心しました。
 
歌手もオケも言うことなし。マエストリはすべて地でいってる感じで演技してるのか普段の姿か分からないくらいですし、歌ってても話してるみたいです。フリットリの品位は敵う人がいないと思います。たまたま楽屋入りするフリットリに出くわしましたが、素顔も色白の綺麗な方でサインや写真に嫌な顔せず応じていました。ますます好きになりました。バルチェッローナもユーモアがあって面白かったです。カヴァレッティは以前フォード役をテレビで見ていて良いなと思いましたが、新しく知ったイリーナ・ルングのナンネッタがスリムな身体で高音の伸びが素晴らしい声のソプラノと思いました。相手役のポーリと共に可愛い恋人役を演じて良かったです。全員40代以下ですから活きのいい舞台になったと思います。
 
ハーディングの指揮は軽快なテンポと変化のつけ方が上手いと思いました。以前聴いた感じではセカセカして好きでなかったのですがこういう喜劇はなかなかのものと見直しました。
 
これほど全部が良かったらさぞ超満足かと思うがそれがそうでないから不思議です。確かに演出は非常によく練られていますし、役者もその計算されたレールの上を走っています。しかしあまりにスムーズに通ってしまうのです。最終公演で疲れが出て緊張感が多少抜けたのでしょうか、それとも慣れきってしまったのでしょうか。上手すぎてサーッと終わってしまった感じを受けました。
 
しかし良いか悪いかといえば良いに決まってるし、こう思うのもスカラ座だからであって普通なら大満足で感激したと思います。10年振りくらいに聴いたスカラ座ですが初めて聴いた時の興奮がないのは仕方ないことです。
 

神奈川県民ホール 「ワルキューレ」

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2013.9.15(日) 14:00 神奈川県民ホール
出演
ジークムント:望月哲也
フンディング:山下浩司
ウォータン:グリア・グリムズレイ
ジークリンデ:橋爪ゆか
ブリュンヒルデ:エヴァ・ヨハンソン
フリッカ:加納悦子
ゲルヒルデ:岩川亮子、オルトリンデ:増田のり子、ワルトラウテ:磯地美樹、
シュヴェルトライテ:三輪陽子、ヘルムヴィーゲ:日比野 幸、ジークルーネ:森 季子、
グリムゲルデ:小林久美子、ロスワイゼ:渡辺玲美
日本センチュリー交響楽団&神奈川フィルハーモニー管弦楽団合同オーケストラ
指揮:沼尻竜典
演出:ジョエル・ローウェルス
 
びわ湖ホールとの共同制作を今回は神奈川で観ました。ダブルキャストですが日程と出演者の関係でこの日になりました。ブリュンヒルデのエヴァ・ヨハンセンに興味があったのとワルキューレに名古屋出身者が出ているからです。
 
演奏が始まる前から舞台全体を縁どりするように宮殿の部屋がセットされています。奥に部屋を仕切るように中幕があって、それが頻繁に開閉して場面を切り替えています。装置は簡単で番小屋風の小屋とトネリコの切り株があるくらいです。その代わりと言えるかト書きにない登場人物が沢山出て演技だけで無言の説明を施しています。こういう形で舞台は進行します。
 
この公演は評価が二分しているようです。オペラは総合芸術ですから指揮者、演奏者、演出家が一致して一つの方向を向いてなければ良い結果は生まれないと私は考えています。歌手一人一人は素晴らしくともそれがオペラの中でどう生きてるかが重要です。私にはどうも納得がいきませんでした。
 
一番の問題は演出だと思います。「ワルキューレ」をリングの一章でなく独立した作品として扱っている点は賛同できないがひとつのやり方として認めることにします。またこの作品を壮大な観念的叙事詩としてでなく、人間社会の家族のいざこざと捉えることも認めることにします。問題はそれで何を表そうとするかです。小津安次郎の映画みたいに家族のその時々の感情を叙情的に淡々と描くだけというのもなくはないが、ワーグナーにそれは無理でしょう。とにかくこの演出は枝葉ばかりで幹がないのです。
 
もう一つは影の人物の頻繁な登場です。もともと台本にないフンディングの召使とか兵士、それから子供時代のブリュンヒルデやジークリンデなどが出てきます。それが次々と出てきて場面の説明をしているのですが煩わしいことこの上ないです。ただし演出家の解釈として意味があるものもないではないです。例えばフリッカがト書きにない場面で(1幕、2幕の終わり、3幕フィナーレ)で出てくるのは、それだけフリッカの存在を強く打ち出しています。
 
一緒に行った「ワルキューレ」全幕初体験の人はストーリーがよく飲み込めたと言っていたからそれなりの効果はあったと思います。確かにフリッカが兄妹の禁断の恋を監視したり、フンディングを殺したり、ジークムントを罰してくれたウォータンにグラスを差し出したり、あるいは次の瞬間残りの酒を顔にぶっかけたりします。またフィナーレではフリッカとワルキューレたちが炎の音楽が鳴ってる時ウォータンを優越的に眺めています。こういうのは確かに理解しやすいと思います。それならウォータンを尻目に引くフリッカだけを登場させれば済むのにと思います。そんな強いフリッカなら車椅子に杖はないでしょう。
 
それと演出が音楽を無視してるところがいけません。それも一番肝心なところでやってくれます。<冬が去り春が来る>が始まると同時にフリッカの登場はないでしょう。フィナーレの炎の場面も物語を完結させるために考えたことと思いますが全くマッチしていません。
 
さて音楽のことが付け足しになってしまいました。沼尻さんの指揮はすっきりした誇張のない音です。ワーグナーは重厚でなければと思う私の好みと違いますが、この演出にはむしろ合っていたと思います。
 
歌手の皆さんはオペラを離れて歌唱だけ聴けば実に素晴らしかったと思います。望月さんのジークムントは激戦を戦った戦士ではないですが甘味な声がロマンスを歌うには相応しいと思いました。ジークリンデの橋爪さんは低い声でフンディングの慰みになった悲哀がよく出ていましたし、逃走の喜びも精一杯歌っていました。グリア・グリムズレイは本格的ウォータンです。朗々としてほんとに凄いです。ただしフリッカにやられっぱなしの弱さはありませんでした。逆にフリッカの加納さんははっきりしない演出家に一番戸惑ったのではと思います。無言の出番も多く、1幕でヨボヨボ歩いたかと思うと2幕では怒りをぶっつけなければなりません。あまり強い感じは受けませんでした。エヴァ・ヨハンソンは身体も細く可愛げがありました。また声が高く強いので良いブリュンヒルデと思いました。フンディングの山下さんは悪役にはちょっと大人しい感じがします。日本人は大体こうですが。ワルキューレの8人はよくハモっていました。外国人が集まると怒鳴ったようになりますが、美しいアンサンブルでした。びわ湖ホール声楽アンサンブルが半分入ってましたが、日本人は協調性があってこういうのは上手いです。
 
これが演奏会形式だったら文句はありません。演出が全て悪いとは言わないがオペラ公演として纏まってなかったことは否めません。しかし良いか悪いかといえば良い部類に入ると思います。
 

ワーグナー生誕200年記念コンサート@サントリーホール

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2013.9.16(月祝) 19:00 サントリーホール
リヒャルト・ワーグナー「ニーベルングの指環」より
曲目・出演者
飯守泰次郎指揮ワーグナー祝祭オーケストラ
「神々の黄昏」からジークフリートの葬送
            ブリュンヒルデの自己犠牲(ブリュンヒルデ:池田香織)
「ワルキューレ」第1幕(ジークムント:大槻孝志、ジークリンデ:清水華澄、フンディング:大塚博章)
 
先月の「パルジファル」に続き再度深い感動の演奏に接することが出来ました。
 
ワーグナー祝祭オーケストラはアマチュア団体です。コンマスだけはシティ・フィルの戸塚さんでしたが、その他は新交響楽団、東京アカデミッシュカペレ、ザ・シンフォニカのメンバーからなる120名の大編成オケでした。よく響くサントリーホールですからそれは迫力がありました。
 
飯守泰次郎は朝比奈隆亡き後、私が日本で最も尊敬する指揮者です。ドイツ音楽、とりわけワーグナーは別格です。いいとこ見せようなんて気のさらさらない堅実で重厚な音楽は他の人では絶対に出来ないと思います。
 
今回は相手がアマチュアです。プロの時と違い指揮は一段と熱が入っていました。楽員にはかなり年配の方も多いようでしたが、皆緊張して真剣な顔付で演奏してました。1曲目のジークフリートの葬送を聴いただけでもうコンサートが終わってもいいと思う程の感動でした。オケの力量が立派でここまで来たらプロと遜色ないと聴いてて思いました。
 
ブリュンヒルデの自己犠牲はリングのフィナーレでもあり内容的にも表現が最も難しいと思います。ジークフリートへの賛辞と愛、神々への願いと別離を語りつつブリュンヒルデの辞世の決意を歌わなくてはなりません。大石内蔵助の切腹に似て、単に失望して死ぬのでなく後の人々のために決然と死ぬのです。ですから弱くては勿論ダメですし、かと言って声高に歌える内容でもありません。オケが助けてくれるところはありますがこれはホント難しいと思います。
 
池田さんは3年前にもこの曲を聴いていますが、その時より声が太く強くなったと感じました。歌唱も感情がよく籠っていて良かったです。飯守先生がよくセーブして、大オーケストラを背にしても声が消えることはありませんでした。
 
さてメインの「ワルキューレ」は2日連続になりました。第1幕は3人しか出ないし曲も叙情的なのでコンサートで取り上げやすいのでしょう。あちこちで競演になっています。大槻さんは声の低い正統のジークムントでした。ただちょっと一本調子なのが惜しまれます。またフンディングの大塚さんはもう少し荒々しさが欲しいかと思いました。でも二人共コンサートだからこれでも良いのではと思います。
 
この日のベストは清水さん。先月のクンドリーも凄かったがジークリンデもまた素晴らしかった!!!
クンドリーは声に驚いたがこのジークリンデはそれに加えて感情表現が良かったと思います。高音最強音でほんの少し声が崩れるところが一・二ありましたがこれは小さいことです。前半の悲しい境遇から後半の喜びの爆発までその気持ちの変化をよく出していたと思います。それをイタオペ的でなくきちんと歌う中で表現してました。クンドリーもジークリンデも初役だったから練習も並行して大変だったでしょう。ホント清水さんの将来は楽しみです。
 
この日東京は台風襲来。昼過ぎまでホテルに缶詰になって、行くつもりでいた美術館も諦めざるを得ませんでした。名古屋から来られなかった人もいるのでは。
 
今回の私のオペラ旅行はこれでお仕舞。最後が一番感動して有終の美を飾ることができ幸せです。
 
 

稲葉地オペラ 「コジ・ファン・トゥッテ」

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2013.9.22(日) 16:00 名古屋市東文化小劇場
出演
フィオルディリージ:基村昌代、ドラベッラ:鬼頭愛、デスピーナ:酒井和音
フェランド:柴田恵造、グリエルモ:吉田裕太、アルフォンゾ:西元佑
稲葉地オペラ合唱団、オーケストラ
指揮:柴田祥
演出:池山奈都子
 
ダブルキャストの2日目を観ました。小規模ホール(300名)で身近に楽しむ地域オペラとしては何も考えなくて済むよくまとまった良い公演でした。
 
舞台は丸テーブルと椅子しかなく、これだけで容易に場面を想像させる技は立派です。例えば縦に一列高く積めば樹木とかコート掛けになり、背もたれに小枝を巻き付ければ庭のベンチといった具合です。その他は演技者の表情や細かい仕草に頼ることになりますが、これがなかなか面白く笑わせてくれました。小さい劇場だからできる演出と思います。
 
その細やかな演技で一つ挙げるなら姉妹の性格がよく出てたことです。デスピーナがアルフォンゾと組んで姉妹を男に会わせる場面で、四重唱の前に長い休止が入ります。その間男に寄られると、フィオルディージは迷惑そうに嫌な素振りを見せますがドラベラはまんざらでもない顔をしています。その後の舞台で姉妹はずっとその気持ちが分かるように変わらず演じています。それだからフィオルディージのロンド<私の恋人よ、許してください>が凄く生きてきます。それとデスピーナの演技が可愛いこと! ひとりで舞台を明るく楽しいものにしていました。
 
細やかな演技と共に聴衆との一体感を出していました。例えば恋人の兵士を送る場面、ふたりは客席の天井の方に手を振って観てるものも一緒に送ってるような気持ちにさせました。またこれは普通にやることですが、アルフォンゾが<皆は女を責めるが>を歌う時舞台ギリギリまで前に出て聴衆に語りかけていました。
 
歌詞では基村さんが演技も若々しく良かったです。低音で声が変わるのがフィオルディリージにはちょっと合わないようにも思いますが表現力は素晴らしかったです。他の方は全体歌唱がやや弱く一本調子かと感じましたが、オペラの面白さを損ずることは全くありませんでした。鬼頭さんの名前は覚えててどこかで聴いたはずですが進歩されたと思います。酒井さんは声量のない分を軽快な演技で十分カバーして大健闘でした。男声陣はそれぞれ良い声の素質があって熱演してくれましたので将来を期待したいと思います。
 
合唱は8名、場面転換の仕事も担ってご苦労様でした。オケも従来通り弦5部に電子オルガンとティンパニーですが、小ホールでは十分な編成と思います。ただ電子オルガンによる管をもう少し活躍させてはどうでしょうか。
 
カーテンコールでは恋人同士が最初と入れ替わって出てきました。読み替えとかまずない地域のオペラですが、最近の傾向を真似て意図的にしたかどうかはわかりません。終わったら歌手がいつものようにロビーに出てきて、大ホールでは見られない親近感のある雰囲気でした。
 
オペラ全幕公演の機会が少なく3時間は歌手の方にとって大変と思います。しかしホールはよく埋まってましたしとても楽しかったので成功と思います。お疲れさまでした。
 
 

バイロイト音楽祭2014チケット発売近し!

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バイロイト音楽祭2014のチケットがネット発売されます。これまで5年とも10年とも言われた順番待ちに関係なく早い者勝ちでゲットできるチャンスです。運良くアクセスできればよいですが凄い競争になること必至でしょう。
 
発売日:10月13日 18:00 (JST14日1:00)
発売チケット:下記の11公演
 さまよえるオランダ人 8/4、16
 ローエングリン 8/9、17
 タンホイザー 8/12、18
 ワルキューレ 8/5
 ニーベルングの指環チクルス(4部作一括) 8/10~15
 
こちらのサイトからどうぞ。
 
 
 
 
 
 

徳岡めぐみ オルガン・コンサート~能楽とオルガン~

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2013.10.12(土) 18:45 豊田市コンサートホール
曲目と出演者
ディートリヒ・ブクステフーデ:プレルーディウム ニ長調 BuxWV139
ニコラウス・ブルーンス:いざ来たれ、異邦人の救い主よ
バッハ/A.イゾワール:アリア ニ長調 BWV1068/2
マックス・レーガー:「12の小品 Op..59」より ベネディクトゥス
バッハ:幻想曲とフーガ ト短調 BWV542
一管(能管ソロ):鈴の段
ジャン=ピエール・ドゥルーズ:4つの俳句によるエヴォカシオン(以上2曲共演:竹市 学)
                霜百里船中に我月を領す(蕪村)、白雨のすは来るおとよ森の上(太祇)
                鴛鴦の羽に薄雪つもる静さよ(子規)、荒海や佐渡に横たふ天河(芭蕉)
バッハ/アンリ・メッスラー:シャコンヌ ニ短調(共演:観世流シテ方梅若紀彰)
(アンコール)
ベートーヴェン:ソナタ8番「悲愴」より第2楽章 アダージョ・カンタービレ
 
本当に素晴らしいコンサートでした。私が10年来聴いたオルガン演奏の中でベストと言えます。オルガンに新しい魅力を発見し、終始緊張した面持ちで聴き入りました。
 
日本ではマイナーなオルガンですが、近くにあるので私は聴く機会が多い方だと思います。しかし演奏される曲がバッハを別にすれば馴染みの薄い作曲家ばかりなので、正直なところあまり印象に残りません。せめてブラームスとかブルックナーを弾いて欲しいといつも思っています。
 
今回は「能楽とオルガン」と言うタイトルがついていたので、その企画の珍しさに惹かれて聴きに行きました。詳細なプログラムの事前発表がなかったので、どんなコンサートかホールに入るまで知りませんでした。こういう時に限って以外に驚きの結果になるものです。
 
前半はオルガン独奏、後半が能管と観世流舞とのコラボでした。ここのオルガンは日本で唯一ジョン・ブランボーの製作によるもので国内外で評価が高くオルガニスト垂涎の楽器ということです。設置10年になりますが徳岡さんは椎名さんの後を継いだ2代目の専属オルガニストで就任5年になります。この10周年を記念して徳岡さんによるCDが発表されました。今回の曲目はほぼこのCDの中に収められています。それだけに用意万端、十二分に練り上げられた演奏でした。
 
前半5曲はオルガンの機能をフルに活用してまるで一つの交響曲を聴いてるようでした。ストップの切り替えを頻繁に行なって多種類の音色を出し、エコーの扉も細かく使って音の大小遠近を出し、極めて変化の大きい演奏でした。異なった作品をうまく組み合わせて一つの曲のようにしたプログラムの編成が見事と思いました。
 
後半の能との組み合わせはもちろん初体験でしたが、能とオルガンは洋の東西は違っても厳粛な空気が相通ずると強く感じさせました。能管ソロはオルガン席で吹いたのでマイクを使ってるかと思うほど強い音がホールに響き渡りました。2曲目のドゥルーズは現在ベルギーで活躍中の作曲家で、この作品は2004年札幌Kitaraで世界初演されたということです。エヴォカシオンとは「イメージの喚起」という意味だそうで、演奏前にプログラムを読んで聴きましたが、俳句の情景が非常によく表現されてると思いました。これは日本を意識した曲ですから能管が入っても自然に聞こえますが、最後のシャコンヌは全く日本に関係がない曲です。これに能舞を新たに振付けたのです。本来の伝統的ものに少しバレエを取り入れたと思いましたが、私は能の知識がないのであるいはそうでないかもしれません。仮にバレエを真似たとすれば、それはバレエに能のフリを入れるようなもので、果たしてどうなんでしょうか。私にはちょっと奇異な感じが湧きました。
 
オルガン演奏は満点、能との共演は大変面白く新しい試みとして評価したいと思います。
 

台風一過の虹

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台風26号が通り過ぎた朝
風はまだ吹いていたが空は秋晴れ
こんな虹が見えました
我が家からきれいな半円形が見えるのは初めて
日本でも珍しいかも
 
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諏訪内晶子 岩村 力指揮 兵庫芸術文化センター管弦楽団

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2013.10.19(土) 15:00 名古屋大学豊田講堂ホール
曲目
ベートーヴェン:レオノーレ第3番 Op.72b
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第2番 嬰ハ短調 Op.129
モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調「ジュピター」 K551
(アンコール)
モーツァルト:ディヴェルティメントK136 第1楽章イメージ 1
 
名古屋大学Homecoming Dayの一環として開かれたコンサートです。大学法人化をきっかけに開かれた大学として、講演や施設公開など多方面にわたる情報発信をしなければならないようになりました。コンサートの他にもサッカー教室とか名大グッズの販売まであるんですよ。(益川まんじゅう! 名大ビール!)
 
お目当てはショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲2番、それを諏訪内さんが弾くというので行く気になりました。彼女を聴いたのはもう5年以上前のことですが、今回の演奏を聴いてすっかり印象が変わってしまいました。チャイコフスキー国際コンクール優勝直後は誠に繊細できれいな音を出すテクニシャンとして名を売ったと思いますが、今はむしろ分厚くて力強い音を出してるように感じました。
 
もっともこれは曲目の所為もあります。2番は1番に比べて私には分り難いです。暗い点では同じですが、曲に潜む人間の思想とか感情に共感するのでなく、音楽の面白さだけに気がいってしまいます。低音が多い、繰り返しが多い、リズム重視、オケ特に打楽器とのかけ合いが目立つなどなど、これまで彼女の特色と思ってた音を出せるところが少ないと思います。しかし演奏そのものは緊張感と迫力のある素晴らしいものでした。
 
諏訪内さんは譜面を置いての演奏でした。1番は已に弾いていますが2番は多分先月の金沢が最初ではないかと思います。今回2度目、そして来月はN響と共演があります。ということは2番は彼女が今新たに取り組んでる曲で、従来と違った面を開拓中とも思えます。
 
オケのフルート、ホルン、太鼓、ティンパニーも健闘で拍手をもらっていました。ただほかの曲は超ポピュラーですから過去に聴いた名演と比較され損します。レオノーレ3番は緊迫感が足りないし、ジュピターはちょっとニュアンスに乏しく、全体に極普通の演奏と思いました。アンコールのディヴェルティメントが一番良かったです。
 
コンサートに行ったことがない招待客が多いのでしょう。演奏中に諏訪内さんの目の前でケイタイをパチパチやる人には呆れました。ゴルフでも禁止されてるというのになんと非常識な!
 

ふるさと四季の花巡り⑨

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奥殿陣屋のコスモス
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奥殿は徳川家の親藩。陣屋の書院の一部が残っています。裏千家11世宗室(玄々斎)は奥殿藩主の子息で養子に入りました。

名古屋市芸術創造センター 音楽劇 「廓に風が」

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2013.10.27(日) 18:00 名古屋市芸術創造センター
出演
志乃:五十君綾子(春駒楼時代)/夏目久子(現代)
幸吉(春駒楼主人):鳴海 卓
鈴子(同女将):橋爪圭子   ほか多勢
作曲・指揮:倉知竜也(オケは電子オルガン2台のみ)
演出:右来左往(みぎきさおう)
台本:山岸千代栄 
 
新作オペラと思って行きましたら文字通り音楽劇、つまり劇に歌のついた芝居でした。
 
名古屋の西の町、中村。かって遊郭「春駒楼」があった養護老人ホームでの回想から物語は始まります。昭和16年戦争が激しくなる中、寒村に生まれた志乃は貧しい家族を助けるため遊郭に売られてきました。ある日一緒に売られてきた幼なじみが初見世に出るよう告げられます。彼女は初めての客に激しく抵抗し、首を切って命を絶ってしまいます。これを期に志乃は春駒楼で生き抜く決意をするのです。太平洋戦争勃発の時でした(第1幕)
 
2年後志乃は中村一の売れっ子娼妓として知られるようになります。しかし戦争中のことで遊郭は日に日に閉鎖に追い込まれていきます。そんなある日娼妓の病死にあって春駒楼の主人は最後の花向けにと花魁道中を思い立ちます。花魁姿で登場した志乃たちを憲兵が取締にかかるのですが、志乃は啖呵を切って追い払い大喝采を浴びるのです。
 
そんな気丈の志乃も下働きの頃から心を通わす使用人高志と一夜を共にします。しかし彼は南方で戦死してしまうのです。生まれた娘と生き抜こうと誓う志乃に追い討ちをかけるようにアメリカ軍の爆弾が襲い、ふたりは離れ離れになってしまいます。
 
戦後、志乃は春駒楼を養護老人ホームにしてその園長になっています。そこに突然娘が養母の元娼妓を連れて現れ、彼女たちは再会を果たすのです。(第2幕)
 
芝居の台本は良く出来ています。今日から見れば考えられない苦しい環境の中でも人間の暖かさを感じながら必死に生きようとする女達の姿を描いています。
 
しかし音楽は正直なところ退屈しました。これがオペラ歌手を並べて上演するのに相応しい作品かどうか疑問に思いました。芝居ならセリフを話す訓練を受けていないオペラ歌手よりも演劇俳優の方が望ましいし、歌でもマイクを使えばもっと個性が出せるミュージカル歌手もいます。名古屋の中堅どころを多勢揃えた公演でしたが、何せ女声が2/3以上それもほとんどがソプラノばかりです。リリックな歌唱が多く、声の質も似てましたから変化が少なくなるのは当然です。オペラ歌手がやる派手さのない宝塚みたいで、芝居も歌も残念ながら中途半端な印象を受けてしまいました。
 
華やかだったのは志乃の花魁姿がとても綺麗でしたし、終始同じ舞台装置なのに照明と効果音をうまく使っていたと思います。
 
ダブルキャスト2日間で4公演、その最終でしたが会場は満席。でも休憩を挟んで4時間近い公演はいかにも長いなあぁと感じました。慣れないことで出演者の皆さん、特にシングルキャストの方は大変だったと思います。お疲れさまでした。
 
 

シューベルティアーデ2013 「美しき水車小屋の娘」

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2013.11.3(日) 14:00 FORUM宙
出演
揚妻広隆(バリトン)、浅田豊(ピアノ)イメージ 1
曲目
シューベルト:「美しき水車小屋の娘」(全曲)
        (アンコール)子守唄、アヴェ・マリア、別れ
 
揚妻さんと浅田さんは共にアントロポゾフィー医学の実践者で、もう10年近くコンビを組んでシューベルトのリサイタルを開いています。「冬の旅」と「白鳥の歌」はすでに歌われていますのでシューベルトの3大歌曲集ではこれが最後になりました。
 
「アントロポゾフィー」とはシュタイナーによって提唱された人間の精神の認識に関わる学問で、それを医療に応用したのがアントロポゾフィー医学です。人間を単に物理的物質(肉体)と捉える現代医学を補完するもので、自然療法医薬、湿布とかマッサージ、それに芸術療法が含まれます。芸術療法には活用手段によって絵画療法、音楽療法、彫塑療法、オイリュトミー(運動芸術療法)に分かれますが、おふたりはそれぞれアントロポゾフィー医師とオイリュトミー療法士として活動してみえます。具体的内容は全く知りませんが、ヨーロッパでは病院や障害者ホームなどで広く行われているそうです。
 
シューベルトの歌曲がこの療法と直接結びつくかどうか知りませんが、心の癒しになる面は分かります。しかし私自身はスポーツと同じで趣味として聴いていますので、作品の意義を理解したり感動したりして喜びを感じれればそれでよいと思っています。
 
揚妻先生は開業医として忙しくリハーサルに多くの時間は取れないと思います。以前はプロの方に混じってバッハやモーツァルトの宗教曲を歌って見えましたが、その頃の声と比較するのは無理かと思います。しかし柔らかい声は変わらずオーソドックスな歌唱で、8、9と最後の5曲ほどは特にゆったりとした情感が出ていました。
 
「美しき水車小屋の娘」を最初に聴いたのは日生劇場がオープンした年のヘフリガーでした。以来この歌はテノールが一番とのすりこみが残って最近ではボストリッジも良いなと思っています。「冬の旅」はバリトンに限ると思いますが水車屋の娘のバリトンもなかなか良いなと思い直しました。
 
 

セミオペラ 「ナブッコ」 (名古屋市民コーラス主催)

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2013.11.9(土) 16:00 名古屋市民会館大ホール
出演イメージ 1
ナブッコ:上江隼人
アビガイッレ:石上朋美
ザッカリーア:大塚博章
イズマエーレ:村上敏明
フェネーナ:大須賀園枝
アンナ:基村昌代
アブダッロ:永井秀司
ベルの大司教:安田 健
名古屋市民コーラス、名古屋フィルハーモニー交響楽団
指揮:澤寿男
演出:池山奈都子イメージ 2
 
名古屋市民コーラスはかっての労音からの団体で50年以上の歴史があります。最近はオケ付きの大曲ばかりに取り組んで注目されています。その中でも特筆すべきはメンデルスゾーンのオラトリオ「聖パウロ」とかドヴォルザークの「スタバート・マーテル」などあまり聴くことのない作品まで演奏しています。その延長で今回は合唱を聴いてもらうためにオペラを取り上げるという企画です。
 
その意気込みが十分伝わる素晴らしい演奏でした。ステージをほぼ独占するように並んだ200名の合唱は全員衣装を付けて舞台に出ずっぱり、壮観であるとともに凄い迫力がありました。最大の聴きどころ<我が想いよ、黄金の翼にのって行け>は悲しみに満ちた望郷の念が静かな大きい渦となって祈るようで感動しました。
 
それ以上に素晴らしかったのは歌手陣です。中でも初めて聴いたアビガイッレの石上さんにはびっくり仰天! 日本人には強悪女をやれるドラマティコはいないと思ってましたが、この人のドスの効いた荒々しさは凄いです。それでいて悲しい女の感情を歌える柔らかい声のリリコでもあります。プログラムを見たらミカエラとマクベス夫人を演じたとあって成程と思いました。上江さんは日本人離れした声でとにかく上手く品位があります。歌唱の方に気がいってしまいましたが、それにしてもナブッコという役は強気と弱気の両極端を作為的と思われないよう表現しなければならず極めて難しいと思います。
 
その他の方々も期待通りの素晴らしい出来栄えでした。ザッカリーアの大塚さん、イズマエーレの村上さんは役柄が上の二人より温和なので大人しく聴こえるのは当然です。でも大塚さんの伸びのある低音の魅力、村上さんの艶のある声は際立って良かったです。フェネーナの大須賀さんはちょっと声量がないが4幕のアリアはとても綺麗でした。
 
澤さん指揮の名フィルもキビキビして良かったし、最近特に管が上手くなったと思います。また池上さんの演出も演技は大きくないが、例えば合唱の衣装をヘブライ人の時は白、バビロニア人の時は赤と変えるなど、色彩的に美しい舞台でした。
 
ヴェルディのオペラはツッコミを入れたくなるような話が多いですが、これも旧約聖書を素材にした(ナブッコとは紀元前6世紀のバビロニア王ネブカドザネル2世のこと)現実離れしています。まあ、そんなことには深入りせず、戦争中の出来事として、国王の心境の変化、王女の恋愛や憎悪の感情を描いたものと割り切った方が良さそうです。第2のイタリア国歌とも称される上述の合唱曲を始め叙情的なアリアが多いので、ヴェルディの音楽に耳を傾けるが一番です。その点今回の演奏は素晴らしく大満足でした。
 
ソリスト、合唱、オケ、指揮者それに演出もそろっての名演でした。それにしても名古屋のアマチュアは凄いことをやってくれます。これからもプロ顔負けの企画が進んでいるようで頼もしい限りです。
 
 

ヴェルディ生誕200周年記念 CSO 「レクイエム」(ウェブキャスト)

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アメリカは私にとってヨーロッパほど音楽的関心がなく、精々ウェブか映画館で視聴すればよいかと思っていました。ところが息子家族がシカゴに赴任したことで訪れる機会もあろうかと、たまにニューヨークやシカゴの関係サイトを覗くようになりました。
 
アメリカといえばニューヨークに目がいってしまいますが、シカゴだってシカゴ交響楽団、リリック・オペラ、シカゴ美術館など日本より余程立派と思います。最近ウェブにこんなのを見つけました。
 
シカゴ交響楽団初めてのウェブ放映です。ヴェルディ生誕200年にあたる誕生日10月10日、シンフォニー・センターにおいて音楽監督ムーティがヴェルディの「レクイエム」を演奏してるものです。ムーティらしいよく統率されたドラマティックな名演と思いました。始めの部分にムーティのスピーチも入っていますので、興味のある方はこちらでご覧下さい。1年間オンデマンドがあります。
 
なおYouTubeでも観ることができます。
 
 
出演
リッカルド・ムーティ(指揮)
シカゴ交響楽団(管弦楽)
シカゴ交響合唱団(合唱)
タチアナ・セルジャン(ソプラノ)
ダニエラ・バルチェローナ(メゾ・ソプラノ)
マリオ・ゼッフィリ(テノール)
イルダール・アブドラザコフ(バス)

ワーグナー生誕200年記念コンサートの集い

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2013.11.15(金) 18:00 岡崎シビックセンター「コロネット」 (一般非公開)
出演者と演目
ウード・シュミット=シュタイングレーバー(ピアノメーカー社長)
   ワーグナー家との親交
菅司(ヴァイオリン) 柴田典子(ピアノ)
   ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」より<愛の死>(編曲版)
   リスト:「詩的で宗教的な調べ」より第7曲<葬送曲>
   リスト:「慰め、6つの詩的思考」より第3曲(ミルシュタイン編曲版)  
   ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」
   ワーグナー:アルバム・リーフより「ロマンス」(ウィルヘルミ編曲版)
岡崎高校コーラス部(指揮:近藤恵子)
   武満 徹:さくら変奏曲
 
岡崎には幕末、明治の時代から代々続く眼科医院があります。そこの院長先生夫妻が音楽の好きな方で、ロータリークラブの会員として様々な活動をされています。今回話をされたシュタイングレーバー社長とはバイロイト音楽祭で知り合いになり、以来交流を続けておられるそうです。
 
シュタイングレーバー社は1852年創業のバイロイトにある老舗ピアノメーカーで現在6代目になり、長年バイロイト音楽祭を支えてこられました。この話で大変面白いことを知ることができました。
 
ワーグナーとの関わりは彼がここの工場の隣に引っ越してきた時に始まり、初めは妻コジマが騒音にクレームをつけたりしたが、後にワーグナーはピアノの素晴らしさに感嘆し、リストも愛用したということです。ワーグナーが当時シュタイングレーバーに宛てた書簡なども紹介されました。パルジファル初演の鐘の音はここで作られた4音のみのピアノだったそうです。なお話はそれますが、バイロイトの辺境伯オペラハウスは現在修復中で2017年7月に再開との話も出ました。
 
さてコンサートはバイロイトから持ち込まれたそのドイツマイスター手作りのピアノによって演奏されました。菅くんは岡崎高校出身でキュッヘルさんに師事したヴァイオリニスト、一方の柴田さんもウィーンに留学したピアニストです。一番印象に残ったのはやはり初めて聴く「ロマンス」で、短い曲ですがこれぞワーグナーと思わせる甘美なメロディーがあり良かったと思います。「クロイツェル」も高音部がキュッヘルさん仕込みらしいきめ細かい柔らかい音が出ていました。中低音部で音が籠るのが惜しいですが、今後の成長を期待しましょう。
 
シュタイングレーバーのピアノは音キレが良くまろやかでサロンにはもってこいと思いました。その良さは独奏曲で一番発揮され、リストの「葬送曲」は悲しみに満ちた素晴らしい演奏でした。彼女はタッチが弱いので大きな音は出せないが、ヴァイオリンを活かす控えめな演奏は好感が持てました。
 
岡崎高校コーラス部は毎年合唱コンクールでトップを争う実力校で、さすがハーモニーが良く上手いです。
 
400名のホールは患者さん、地域の方々、医療関係者、岡高関係者、同好会仲間などで満席でした。これほど多くの人が集まったのはそれだけコンサートの企画が良かった証拠と思います。ご招待を感謝し、成功をお慶びいたします。
 
 

ジャン=ギアン・ケラス 無伴奏チェロ・リサイタル

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2013.11.18(月) 19:00 電気文化会館ザ・コンサートホール
曲目
バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番 ニ短調 BWV1008
                第3番 ハ長調 BWV1009
                                   第6番 ニ長調 BWB1012
(アンコール)
クルダーク:影
バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番からプレリュード
 
ジャン=ギアン・ケラスは何度も日本に来ているのに私は名前くらいしか知りませんでした。バッハの無伴奏と聞いて聴こうと思いました。マタイ、ヨハネ受難曲と共にバッハの中で私が一番好きなのが無伴奏のヴァイオリンとチェロです。それは演奏家の個性とか主張が100%出る曲でもあります。
 
ケラスのバッハは今まで聴いたことがない新しいものでした。若い人だからむしろドライで明晰な力強い演奏かと思ったのですが、全く正反対でした。実に情緒的で柔らかく滑らかで、こんにゃくみたいなしなやかさを感じさせる演奏でした。無論テクニックが素晴らしく、指の動きやボウイングにゴツゴツしたところが全くなく自由自在に自然に流れているように見えました。特にクーラントは本当に見事でした。それに弱音の美しさが印象に残っています。
 
私のバッハはこれまで深遠、内省的、ベートーヴェンで言えば後期弦楽四重奏曲とかピアノ・ソナタ、それにブルックナーの交響曲と同じスタンスにあるように考えていました。もう一つあるのは音楽の構成力を打ち出したもので、強弱、テンポを大きく変える現代的な演奏です。しかしケラスのバッハは誠に楽しい! 哲学的でなく楽しく癒される音楽です。ある時は子守唄のようでもあり、またある時は子供が飛んだり跳ねたりしてたり、あるいは恋人同士が優雅に踊ったり、おしゃべりに夢中になったり、そんな感じをもちました。この人長身のイケメンでもあり女性に絶対モテると思います。帰りのエレベーターの中で全身の筋肉が緩むようだと話してた気持ちがわかります。
 
アンコールで演奏された<影>ですが、僅か数十秒の曲で、エッこれでお仕舞と笑えてしまいました。これも楽しさを倍加させてくれました。
 
サイン会もありましたが多勢の人が並んでいて遅くなるので、彼がロビーに現れる前に退出しました。新しく発見した楽しいバッハの一夜でした。

NHK BSプレミアム ミラノ・スカラ座放送予定

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今年も年末にNHKBsプレミアムでミラノ・スカラ座の特集が放送されます。NHKのサイトで発表になってましたので記録しておきます。ヴェルディ&ワーグナー生誕200年を記念してそれぞれ2演目ずつです。録画を忘れないようにしなくては。
 
①12/23(月)0:30~
「椿姫」(2013-14シーズン開幕公演) 
   ヴィオレッタ:ディアナ・ダムラウ 
   アルフレード:ピョートル・ベチャワ 
   ジョルジョ・ジェルモン:ジェリコ・ルチッチ 
   ミラノ・スカラ座合唱団、管弦楽団
   指揮:ダニエレ・ガッティ
   演出:ディミトリ・ツェルニアコフ
 
ダムラウがソプラノの最終目的と言っていたヴィオレッタがスカラ座開幕公演に登場します。
 
②12/24(火)0:45~
「ナブッコ」(2013年制作)
   ナブッコ:レオ・ヌッチ
   イズマエーレ:アレクサンドルス・アントネンコ
   ザッカーリア:ヴィタリー・コワリョフ
   アビガイルレ:リュドミラ・モナスティルスカ
   ミラノ・スカラ座合唱団、管弦楽団
   指揮:ニコラ・ルイゾッティ
   演出:ダニエレ・アバド
 
  
③12/27(金)0:00~
「トリスタンとイゾルデ」
   トリスタン:イアン・ストーリー
    イゾルデ:ワルトラウト・マイアー
      ブランゲーネ:ミシェル・デ・ヤング
      クルヴェナル:ゲルト・グロチョスキ
      マルケ王:マッティ・サルミネン
      メロート:ウィル・ハルトマン
      指揮:ダニエル・バレンボイム
   演出:パトリス・シェロー
 
これってかなり前の公演でないですか。(07年?)
 
④12/28(土)0:15~
「神々の黄昏」(2013年制作)
 
ラインゴールド、ワルキューレ、ジークフリートの3作は放送済ですからこれで完結。ただし間違いと思いますが、NHKの番組予告では指揮がルイージ、キャストがラインゴールドの歌手になってます。月末にはサイトに詳細が載ると思いますので確認しなければいけません。
 
 
 
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