2013.8.25(日) 15:30 愛知県芸術劇場コンサートホール
出演
パルジファル:片寄純也
アンファルタス:初鹿野剛
グルネマンツ:長谷川顯
クンドリー:清水華澄
クリングゾル/ティトゥレル:大森いちえい
小姓/花の乙女/アルトの声:三輪陽子
花の乙女たち:基村昌代、杉浦愛美、加藤愛、大須賀園枝、船越亜弥
聖杯騎士:堀内大輝、滝沢博
小姓たち:上井雅子、大久保亮、神田豊寿
モーツァルト合唱団、ワーグナー・プロジェクト名古屋管弦楽団
指揮:三澤洋史
奇蹟、まさに驚愕の奇蹟が起こりました。アマチュアがこれほど素晴らしい感動を与えてくれるとは!!
プログラムを見て知ったのですが、日本における「パルジファル」の上演実績は過去わずか9回しかないそうです。もちろん全部プロの演奏で、内2つは海外の引越公演です。これをアマチュアが挑戦するというのですから大冒険と言えます。名古屋のアマオケ合唱は昨年合同で「千人の交響曲」を演奏して話題になりましたが、こういう基盤があるからこそ出来たことと思います。それにしても指揮者三澤洋史氏の苦労は並大抵でなかったと想像しますし、その熱意には頭が下がる思いです。
三澤先生は言うまでもなく新国合唱を世界のトップに押し上げた方です。モーツァルト200合唱団とも関係が深く20年にわたって指揮を続けておられます。この日の合唱はこれまでよりまた一段と美しいハーモニーを奏でていました。騎士団の合唱は力強さよりも荘厳さを出すことに注意し、乙女たちの合唱は流れるように美しく歌っていました。
オケは期待をはるかに上回る大熱演で、この長丁場も弛れるところがありませんでした。三澤先生の的を得た必死の指示に一生懸命ついていこうとする楽員の熱気がよく伝わってきました。弦が少ないとか技倆の欠点を補って余りある感動的演奏になりました。アマチュア演奏でこういうことはよくあります。
アマチュアの頑張りに負けてはならじとソリストたちも熱が入っていました。片寄さんは昨年の二期会でパルジファルを演じたヘンデルテノールです。強弱の変化が大きい力強い声で、例えばクンドリーのキッスで目覚めて「アンファルタス」と叫ぶところの迫力にはびっくりしました。初鹿野さんは感情移入が素晴らしいドラマチックな歌唱でした。また長谷川さんはちょっと体調が完璧ではなかったようですがふっくらしたいい声の聖人らしいグルネマンツでしたし、クリングゾルの大森さんもいちばんえい格好の魔界の親分でした。
しかしそれより凄いのはクンドリーの清水さん。彼女の声には驚きました。ロールデビューということで一層頑張ったかもしれません。1幕は音が全く外れず声がよく通ると思ってましたが、2幕冒頭の地声の叫びからオッと思わせました。その後もこんなに出して大丈夫かと心配するほどアクセル全開で絶好調でした。クリングゾルとパルジファルはそれに引っ張られるかのようになって全く素晴らしい競演となりました。それとは対照的に花の乙女たちのソロと合唱、こちらは実にきれいでした。演技を伴っていないだけに音楽の対比が一層目立ちました。
三澤先生が現在望みうる最高の歌手と言われた通り、外国人はもう要らないと思わせる出来栄えだったと思います。
コンサートオペラとなってますが、衣装と照明を若干工夫した演奏会形式といった感じでした。ステージの前方にオケ、後方の壇上にソリスト、オルガン席に合唱とバンダという配置でした。しかし譜面台は銀色でしたし、壁にも森を思わせるような銀色の掛物があって、それなりに厳かな儀式らしい感じが出ていました。その上バイロイトを真似て開演のファンファーレがなってから楽員が入ってくるので雰囲気がとても盛り上がったと思います。
荘重に長く余韻を残し消灯で幕となりました。カーテンコールでお互いを讃え労いながらも拍手がなかなか止まりません。最後は指揮者がコンマスに合図して解散となりました。
この公演は名古屋のクラシック演奏史上、また「パルジファル」の日本における公演史上においても記憶されるべきと思います。まさに最高の奇蹟でした。