例年夏休みはコンサートに出掛けることがほとんどなく、特に今年は少ないです。この間WebTVのライブが中心になるのですが今年は良いものが沢山ありました。既に記事にしたのもありますが全体を総括しておきます。(*は記事にしたものです)
バイロイト音楽祭(BR-Klassik)
①「タンホイザー」* (指)コーバー、(演)バウムガルテン、Tケール、Cニールント、Yクヮンチュル、Mアイへ、Mブリート
2011制作、醸造工場が舞台。精神と肉体の葛藤を描いているだけで深みがない。音楽は立派。
ザルツブルク音楽祭(MediciTV)
②「ドン・ジョヴァンニ」* (指)エッシェンバッハ、(演)べヒトルフ、Iダルカンジェロ、Lピッサローニ
時代場所を置き換えた演出で女声に若手を抜擢した好演。
③「イル・トロヴァトーレ」* (指)ガッティ、(演)ヘルマニス、Aネトレプコ、Fメリ、Pドミンゴ、Mルシュー
物語を伝説とし美術館を舞台にした新鮮な発想。指揮、歌手、オケも申し分なしで稀に見る素晴らしい公演!
④「ばらの騎士」 (指)ウェルザー・メスト、(演)クプファー、Kストヤノヴァ、Sコッホ、Gグライスベック、Aエレート
ちょっと暗いが普通の演出。TVで大写しされると歌手が役柄に合ってない感じ。3幕が良かった。
⑤「フィエラブラス」* (指)メッツバッハ、(演)スタイン、Jクライスター、Dレッシュマン、Mシャピュイ、Mシェーデ、Gツェッペンフェルト
極めて珍しいシューベルトのオペラ。ちょっと冗長の感があるが最上の演奏で初体験でした。
ミュンヘンオペラフェスティバル(BSO-TV)
⑥「オルフェオ」 (指)ボールトン、(演)ベッシュ、Cゲルハーヘル
ゲルハーヘルの独り舞台。モンテヴェルディがいけないわけではないが他に流して欲しい演目がいくらもあるのにと思う。
オランジュ音楽祭(FranceTV)
⑦「オテロ」* (指)ミュンフン、(演)デュフォー、Rアラーニャ、Iムーラ
ミュンフンのドラマティックな指揮とアラーニャの迫真の熱演
ヴェルビエ音楽祭(MediciTV)
⑧「ファウストの劫罰」* (指)デュトワ、Cカストロヌーヴォ、Wホワイト、Rドノーゼ
劇的音楽ではあるが感情表現がオペラ的でなかった。
⑨「フィデリオ」 (指)ミンコフスキー、Iブリンバーグ、Bジョヴァノヴィッチ、Eニキーチン
さすがオペラ指揮者ミンコフスキーはデュトワより上手い。
⑩「外套」 (指)ハーディング、Lガッロ、Bフリットり、Tアランカム、Eセメンチュク
「ドン・カルロ」(3&4幕) (指)ハーディング、Vグリゴーロ、Lハラタニアン、Dバルチェローナ、Lガッロ、Iダルカンジェロ、Mペトレンコ
ハーディングの指揮と歌手の競い合いが素晴らしい。32歳アランカムの声、グリゴーロ全身全霊の歌唱、ハラタニアンの綺麗な声が特に印象に残りました。ヴェルビエではこれがベスト。
グラインドボーン音楽祭(FranceTV)
⑪「椿姫」* (指)エルダー、(演)ケアーンス、Vギマディエヴァ、Mファビーノ
30代ギマディエヴァの容姿と清純な声、20代ファビーノの甘い声のコンビですがすがしい好演。幕間の社交的雰囲気も分かって良かった。
ヴェローナ野外音楽祭(NHK)
⑫「カルメン」 (指)ナナシ、(演)ゼフィレッリ、Eセメンチュク、Iルング、Cヴェントレ、Cアルヴァレス
「アイーダ」と共にアレーナでやるにふさわしい「カルメン」の華やかな舞台。闘牛士の登場で手拍子が起こるのはいかにもヴェローナらしい。
ヨーロッパの音楽祭は年間のシーズン公演がないところで行われるのが普通です。(例外はミュンヘン)ですから通常のオペラ公演とは違った雰囲気を持っています。格式高い社交の場もあれば観光ついでというのもあります。しかし間違いなく言えることはオペラの質はどこも高いことです。しかし好き嫌いは勿論ありますし判断も全く自己偏見でそれを踏まえた上でまとめてみます。
まず総合的に見て最も良かったのがザルツブルクのトロヴァトーレ。極端な読み替えもなく、それでいて伝統的とは全く異なった斬新な発想。話は出鱈目だが音楽は最高という認識を一挙に覆した将来忘れられない公演でした。
観る楽しさを満喫させてくれたのはやはりヴェローナの野外音楽祭。陽が完全に落ちてからの舞台の美しさは一般観光客にも受けること間違いなしです。数万人も入るバカでかい会場でその場で音楽を聴くには適しませんがテレビならその問題もありません。
じっくり音楽を聴くならヴェルビエ音楽祭も良い。昔は音楽家が自分たちの休暇がてらにリゾート地に集まり失礼ながら片手間にアカデミーをやってると思ったこともありましたが、それは間違いで超一級のスターもアカデミーのオケも音楽に真剣で熱意の籠った素晴らしい演奏をしています。特にハーディングの指揮と歌手が競い合った⑩の熱演には感動しました。
その他気づいたことは驚くなかれ20代30代の若い人達がこのような大舞台に沢山出ていることです。主催者の商業主義と観る側の層の薄さがあって日本のオペラはまだ未熟だと痛感します。
次に演出問題です。一般観光客も念頭に入れたかシーズン公演で見られる理解に苦しむような読み替えはありませんでした。ある時期オペラの実験場みたいな感があったザルツブルクも随分おとなしくなったと思います。中には素晴らしい演出もありますが、概して細かい部分での解釈とか表現法の工夫にとどまり新鮮さに乏しいと思うのは欲張ったことでしょうか。
今年のバイロイトは公演の前に演出家のレクチャーがあったそうです。これ自身悪いことではないが、逆にそれを聞かないと理解できないというのも考えものです。近年のバイロイトで賞賛される演出がひとつもないというのは大問題だと思います。ワーグナーが25年もかけて完成させたリングを1年かそこらで舞台に載せることがどだい無謀だと私は思います。次のリング新制作は2020年でティーレマンが指揮予定とのこと。もう今からスタートして欲しいものです。その前に今年ザルツブルク音楽祭「トロヴァトーレ」の演出家ヘルマニスが2018年「ローエングリン」の新制作を担当することになっています。指揮はティーレマン、エルザがネトレプコということで大いに期待しましょう。
主たる夏の音楽祭は概ねWebで廻ることができました。目星いところで抜けているのはエクサン・プロヴァンスですが、これは去年Medici とARTEが流してくれました。あとロッシーニ・オペラ・フェスティバルROPですが、ラジオ放送はあってもテレビはないみたいです。イタリアRaiTVであってもよさそうにに思います。ご存知の方お教えください。