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河村尚子 ピアノ・リサイタル~ロシアン・ピアニズムの世界

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2014.7.2(水)19:00 電気文化会館ザ・コンサートホール
曲目
プロコフィエフ:束の間の幻影 op.22より 第1、4、5、7、8、10、14番
ラフマニノフ:前奏曲 op.23より 第7、10、2番
        コレッリの主題による変奏曲 op.42
ムソログスキー:組曲「展覧会の絵」
(アンコール)
スクリャービン:左手のためのノクターン
リムスキー=コルサコフ:熊蜂は飛ぶ
 
名古屋地区で開かれる河村尚子のリサイタルには欠かさず足を運んでいますが、今回の演奏はこれまで聴いた中でも彼女の個性が最も良く現れていたと思います。
 
河村さんはレパートリーの焦点を絞ることなくバッハからプロコフィエフまで幅広く取り組んでいます。また活動の範囲もリサイタル、コンチェルト、室内楽から伴奏にまで及んでいます。これは演奏家として成長する過程で大事なことと思います。
 
河村さんの特徴は多様な音質を駆使した洗練された表現力にあると思います。フレーズを強弱、リズム、テンポの変化に加うるに音の種類を多く使い分けて微妙なニュアンスを出しています。例えが悪いかもしれませんが、平手と拳骨で叩く時の感触、風船が膨らむのと萎む時の軟らかさ、油絵と水彩の色、ダイヤとシルクの輝き等々を音の違いとして表現することができます。こういう人はそんなにいないと思います。勿論これはテクニック上の問題で、その前に天賦の感性があって実現できることです。
 
束の間の幻影(抜粋)は2年前にも聴きましたが得意な曲なんでしょう。全部聴くと似た曲があって退屈するのでタイプの違う曲を選んでくれた方が聴き易いです。力強さや軽妙さも入った幻想的で美しい演奏でした。ラフマニノフの前奏曲は優しい10番を挟んだ華やかな演奏でひとつのソナタを聴くようでした。コレッリ変奏曲は静かに始まり大きな起伏があってまた静かに終わる曲です。ここでもいろんな音を聴くことができましたが、初めてだったこともあり前2曲の延長みたいに感じてしまいました。(すみません)
 
何よりも素晴らしかったのは「展覧会の絵」でした。ピアノでもオケでも何度となく聴いてる曲なのに全く新鮮で彼女の面目躍如たる演奏でした。外向的な堂々とした迫力でなく(といっても小ホールなので十分の迫力でしたが)、内向的で落ち着いた演奏でした。絵画を描写してるのでなくそれを観ている人の心象を表現してるようでした。アンコールの熊蜂は飛ぶもありきたりの曲なのに彼女が弾くと違って聴こえます。羽音のうなるような低音が見事でした。
 
これで6回聴いたことになりますが飽きがきません。大抵はつまらなくなるトランスクリプションも(前に聴いたリストのトリイゾなど)彼女が弾くと生き返るような感じがします。今後も聴き続けたいのですが、この後暫く休暇の予定になっています。ステージで拝見した様子ではおめでたのようです。ご無事を祈るとともに人間として一層成長された復帰を期待したいと思います。
 
 
 

コバケン・スペシャル2014 マラー交響曲第2番 「復活」

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2014.7.12(土) 16:00 愛知県芸術劇場コンサートホール
小林研一郎指揮者デビュー40周年記念公演
出演
ソプラノ:生野やよい
メゾ・ソプラノ:清水華澄
岡崎混声合唱団、愛知県立岡崎高校コーラス部 (合唱指揮:近藤恵子)
名古屋フィルハーモニー交響楽団
指揮:小林研一郎
 
小林研一郎(コバケン)がハンガリーで指揮者デビューして40年だそうで各地で記念コンサートが開かれています。名古屋は桂冠指揮者になっている名フィルの「復活」でした。シンフォニーのコンサートは久し振りのことで、岡高合唱とパルジファル以来その声に魅せられた清水さんが出演とあって聴いてきました。
 
このホールの広いステージも狭いと思えるほどいっぱいに拡がったオケ、その後のオルガン席に約100名の合唱団が並んでまさに壮観です。この時点で炎のコバケンと言われる激情的迫力を予想できました。期待通り大迫力の素晴らしい演奏でしたが、それは合唱団と2人のソリストが歌う極上の声がってのものです。
 
岡崎混声合唱団(旧岡高コーラス部OB合唱団)と岡高コーラス部はともに岡高教員の近藤先生が指導している合唱団です。両団体とも全国合唱コンクール上位入賞の常連で数々の輝かしい受賞歴があります。岡高は県内1、2の進学校です。その合唱サークルは毎年半数が入れ替わるので、1年で育て上げなければならないことになり指導者の力が如何に大きいか容易に分かります。両者とも近藤先生あっての合唱団です。
 
コバケンさんはオケを奮い立たせてでかい音を出させるところが素晴らしいです。しかし曲想の細かい表情を引き出しコントロールするのはあまり上手くないようです。オケが自発的にまとまれば良いのですが、そうでないと勝手に弾いてるだけで一つの音楽として聴こえないように思います。今回も1~3楽章ではそのきらいがあり、人間の魂を感ずることができず不満が残りました。それが清水さんの登場で吹っ切れました。苦悩、祈り、信念、願望といった人間の気持ちを全神経を集中し深い情感をもって歌い上げました。それ以降私は神聖な世界に入り込んでしまいました。終楽章で合唱が静かに入るとそれは何と汚れのない神聖な声であることか! オルガンの音かと間違えるほどよくハモり、ホールを大きく包み込む神々しい豊かな響きでした。これアマチュアなんです。コバケンさんのご指名だそうで、それも納得できます。プロでもそんなに聴けるものでないと思いました。その声の中から浮かび上がってきた生野さんの声もまた私達を勇気づけてくれる女神のようでした。オケもここへ来て完全にひとつになり全力投球、コバケンさんの良さも120%発揮されそれこそ炎のような復活の喜びを感じました。終楽章が長大なので聴き終わった時は感動だけが残りました。
 
チケットは完売で満席の聴衆の拍手は10分以上続きました。コバケンさんは温厚な方で指揮台に上がる前に楽員一同に挨拶し、楽章の間でも指揮台を降りて礼を言ってるように見えました。終演後もひとりひとり労をねぎらい、特に合唱の皆さんまでパート毎立たせていたのは珍しいです。近藤先生とも抱き合っていました。それだけ素晴らしかったのでしょう。
 
ハ短調交響曲はベートーヴェン以来、ブラ1、ブル8、復活とどれも作曲家を代表する壮重な名曲ばかりです。この秋には名古屋のアマチュア・オケがブル8を演奏ことになっています。きっと大感激になると期待しています。
 
 

モネ劇場ウェブTV グルック 「オルフェオとエウリディーチェ」

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2014.6.25&27 モネ劇場で収録
出演
オルフェオ:ステファニー・ドゥストラック
エウリディーチェ:ザビーネ・ドヴィエイル
愛の女神:ファニー・デュポン
モネ劇場合唱団、管弦楽団
指揮:エルべ・ニケ
演出:ロメオ・カステルッチ
 
ウィーン芸術週間との共同制作でブリュッセルに先立ちウィーンで5月に上演されています。但し演出は同じでも出演者は全部違い、モネ劇場のベルリオーズ版に対しウィーンはイタリア版を使用しています。
 
エウリディーチェ(妻)を亡くしたオルフェオ(夫)が愛の女神の案内で冥界に入り込み連れ戻すというギリシャ神話の物語です。これを現代に読み替えたカステルッチの演出は極めて深刻なものでした。 
 
エウリディーチェはエルスというロックイン症候群で入院中の患者になっています。ロックイン症候群とは意識があるのにものを言うことも動くこともできず、わずかに目だけが動く脳神経系の病です。正常な生とは違った世界にいることで冥界に替わっても理解できますし、正常な生活に戻してやりたい夫の気持ちも当然のことです。そういう設定に無理はないと思いますが、問題はそのエルスが現在に実存する女性であることです。
 
ステージ中央にマイクが1本、上手にオーディオ機器か医療機器と思われる器械が動いています。1幕、オルフェオがマイクに向かって歌っている時後方のスクリーンにはエルスが生まれてから入院するまでの経過が事細かにフィリップに流れます。音楽よりもこちらの方に気を取られてしまいました。
 
もうひとつ特異なことはこの公演を病院で寝たきりのエルスにヘッドホンで聞かせるという設定です。マイクの前で歌うのはそこから来ています。この意図は治って欲しいと願う夫の励ましと思われますが、不治の病なので観てる方には慰めと思えてしまいます。2幕、エウリディーチェが出てくる場面が美しく、夫が描くエルス幻想のようでした。
 
神話はハッピーエンドですが、この演出ではエルスにつけたヘッドホンをはずす映像で終わります。エルスの表情は嬉しそうにも見えますがお別れを言ってるようにも見えます。生から離脱して穏やかな世界に入るという意味でしょうか。終演後はただ静寂あるのみでした。その場にいてもとても拍手する気分にはなれなかったでしょう。
 
登場した実存のエルスもフィクションと考えることもできます。しかしそれにしてはあまりにも生々しく描かれています。日常生活からの開放を楽しむオペラとしては残酷すぎる演出と思いました。
 
哲学的意味を含めるにしても読み替え演出はどうしてもセリフの齟齬が出てきます。批評がまだネットに出てきませんが私の受け止めが違っているかもしれません。7/29まで観られますので興味のある方はご覧ください。
 
 
 
 

MediciTV ヴェルビエ音楽祭 ベルリオーズ 「ファウストの劫罰」

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2014.7.22 ヴェルビエ・フェスティバル2014
出演
ファウスト:ラモン・ヴァルガスチャールズ・カストロノーヴォ
メフィストフェレス:ウィラード・ホワイト
マルグリート:ルクサンドラ・ドノーゼ
カレッジエイト合唱団、ヴェルビエ祝祭管弦楽団
指揮:シャルル・デュトワ
 
西洋芸術文化の源流にあるのは聖書とギリシャ神話ですが、ルネッサンス以降の文学ではダンテ「神曲」とゲーテ「ファウスト」が絵画、音楽、文学など各方面の芸術家に多大の影響を与えています。「ファウストの劫罰」もゲーテ「ファウスト」を基本に少し作り替えた物語です。
 
劇的音楽なのでコンサート形式で演奏されることが多いですが、たまにオペラとして上演されることがあります。私はMETの映像で予習しました。どちらにしても台詞がわからないと興味が半減するので字幕があった方が良いと思います。しかしこの演奏は字幕なしのコンサート形式です。
 
デュトワ得意のフランスものでだいぶん前にN響定期でも取り上げられていました。デュトワの指揮は比較的インテンポで堅実な(テンポをずらしたりフレーズの色付けをひかえた)印象を受けました。ストリーミングでものを言うのは間違ってるかもしれませんが、オケは上手く弾いてても全体としてまとまった響きが感じられませんでした。無機質ではないが音楽的にドライな音だと思いました。アカデミーのオケですからやむをえないかもしれません。
 
マルグリート役のドノーゼは落着いた声で感情の表現が凄かったし、黒人のホワイトも暗く太い声で悪魔らしいメフィストフェレスでした。ただヴァルガスカストロノーヴォは主役なんだからもう少し強い打ち出しがあればと感じました。
 
まだ当分観られますから興味のある方はこちらからどうぞ。
 
(追)
調べたらドノーゼとホワイトはN響定期の時のソリストでした。
 
 

弦楽トリオのゴルトベルク変奏曲

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2014.7.26(土) 18:00 宗次ホール
出演
荻原尚子(ヴァイオリン)
村上淳一郎(ヴィオラ)
山崎伸子(チェロ)
曲目
バッハ:無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第2番 変ロ長調 K.424
バッハ/シトコヴェツキー編:ゴルトベルク変奏曲 BWV988 (弦楽三重奏版)
 
珍しいプログラムに興味が湧きました。ケルンWDR交響楽団コンマスの荻原尚子は豊田市出身なので毎年夏の帰国コンサートにはしばしば出掛けています。今回は同じWDRソロ主席ヴィオラの村上淳一郎にチェロの山崎信子が加わって弦楽トリオのコンサートでした。
 
弦楽トリオはクァルテットのような常設の楽団はなく、その都度気のあった者が組んで演奏することが多いようです。3人は去年ピアノ四重奏で一緒でしたから今回が初めてとは言えないでしょう。呼吸は良く合ってました。
 
山崎さんのチェロは実に響きが豊かで、ホールを溢れんばかりの音には驚かされました。勿論トリオの時はバランスを考えてはいましたが。全体的には迫力のある素晴らしい演奏で私には思索的なサラバンドが良かったです。
 
2曲目、荻原さんのヴァイオリンはしっかりした強い音でした。さすがコンマスの技倆だと思います。但し2人の息がよく合った第3楽章は素晴らしかったですが、1、2楽章ではもう少し情緒的な起伏があったらと思いました。村上さんのヴィオラは常に落ち着いた温かい音色でとても良かったです。
 
さてお目当てのゴルトベルク変奏曲。バッハのゴルトベルクと言えばグレン・グールド、グレン・グールドと言えばゴルトベルクと今や一体化されています。ソ連のヴァイオリニスト、シトコヴェツキーがそのレコードを聴いて感銘し弦楽三重奏に編曲した作品です。
 
バッハの原曲は不眠症に悩むロシアの伯爵のために書かれたと言われています。グレン・グールドのCDを聴いて思うに、様々に変化する短い変奏の中にまるで子守唄みたいに静かで繰り返しの多い長い変奏が2つ挟まれています。編曲版は原曲を超えるものがまずない上に、鍵盤作品を弦楽器に置き換えるのは音の出方が本質的に違うから極めて難しいと思います。だから先入観を持たずに白紙の状態で聴かなければと理屈では思うのですがグールドの演奏から離れることが出来ません。少なくとも細やかな表情の変化だけ期待していました。
 
実際はやはり別物という感じでした。音楽の構造美を強調した演奏で、私としてはもっと歌わせたり大きな変化があった方が良いと思いました。どちらかといえばむしろ淡々とした印象で、バッハならそれも(余計なことをしないのも)良かろうと思うのですがこの編曲版では面白くありません。
 
一言で言えば音がよく鳴り上手い演奏と思いましたが、今ひとつ訴えるところが弱いなという印象でした。3人とも皆素晴らしい方なので楽曲に対する深い共同研究があればと思いました。
 
 

BR-klassik バイロイト音楽祭2014 「タンホイザー」

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2014.8.12(火) 23:00(JST)  バイロイト祝祭劇場 ライブ収録
出演
タンホイザー:トルステン・ケール
ヘルマン:ユン・クヮンチュル
ウォルフラム:マルクス・アイへ
エリーザベト:カミラ・ニールント
ヴェーヌス:ミシェル・ブリート  ほか
指揮:アクセル・コーバー
演出:セバスティアン・バウムガルテン
 
今年のバイロイト音楽祭は新制作がないので開幕は2011年制作の「タンホイザー」でした。演出の批評は既に語り尽くされていますが私の感想を一言書いておきます。
 
初日は舞台機構の故障があって観客が外に出される中断があったそうですが、ビデオ中継はラジオとは違う日です。但しストリーミングでは休憩時間がカットされています。
 
舞台は醸造工場みたいでヴェーヌスベルクは地下からセリで上がってくる。カーテンは最初から開きっぱなしで舞台上左右も珍しく客席になっています。中央奥にスクリーンがあり、そこにいろんな映像が頻繁に投射されます。ちょっと煩わしく思いました。
 
「タンホイザー」は相容れない2つの世界で葛藤する姿と結末を描いています。演出でどんな読み替えをするにしてもこの構図は守らなければいけないと思います。なのにバウムガルテンは単に精神(思想)と肉体(官能)を表面的に対比させているだけのように思いました。ワーグナーはそういう形はとっていますが、意図は思想の決定的相違であり、例えばカトリックと反カトリックとか封建制と民主制の戦いの中で格闘し苦悩していたのだと思います。その点この演出はイタオペ的でつまらないと思いました。
 
でも音楽は素晴らしかったです。特にニールント、ブリート、クヮンチュル、アイへと合唱が良かった。「死の都」で絶賛されたケールですがワーグナーでは喉から出す感じのくせがちょっと気になりました。新顔コーバーの指揮は普通だけど手堅いといった感じでしょうか。
 
NHKも参加しているのでいずれ放送されると思います。スクリーンのドイツ語がわからないので改めて見るつもりです。
 
 

Medici-TV ザルツブルク音楽祭2014 「ドン・ジョヴァンニ」

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2014.8.3(日) ザルツブルク モーツァルト・ハウスでライブ収録
出演
ドン・ジョヴァンニ:イルデブランド・ダルカンジェロ
レポレロ:ルカ・ピサローニ
ドンナ・アンナ:レネケ・ルイテン
ドンナ・エルヴィーラ
ツェルリーナ:ヴァレンティーナ・ナフォルニータ
騎士長:トマス・コニエチュニ
ドン・オッターヴィオ:アンドリュー・ステイプルズ
マゼット:アレッシオ・アルドゥイーニ
ウィーン・フィル合唱団、管弦楽団
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
演出:スヴェン・エリック・べヒトルフ
 
若手を抜擢した素晴らしい公演でした。演出も時代場所は置き換えているが素直な舞台でした。
 
場所はホテルの中、上手にバー・カウンター、中央階段を上がると客室が並んでいる。全幕同一の舞台で照明と小道具で場面転換を図っています。この演出の一つの特徴は默役の鬼を登場させていることです。閻魔大王がドン・ジョヴァンニを地獄へ落すぞと改心を迫っているようです。ドン・ジョヴァンニをとっちめようとしているアンナやエルヴィーラには応援を送っています。
 
もうひとつは終幕でドン・ジョヴァンニを生き返らせていることです。性の欲望は永遠になくならないことを言いたいのでしょうか。これでは表面的すぎると考えるなら何か思想を暗示しているのかもしれません。べヒトルフは演出に際して性は自由への欲求と書いています。ワーグナー的に解釈すればこれも無理なく納得できます。というのもドン・ジョヴァンニが改心を強硬に拒絶し続けるのは単なる個人的性欲だけでは考えにくく、自由への強い信念の現れと見たほうが理解しやすいからです。それならドン・ジョヴァンニの真の姿は革命家であり、己が死んでも誰かが引き継いでくれると主張してることになります。演出の裏には自由を暗示していると見ることも確かにできます。
 
ソリストはみんな若い! それが歌唱だけでなく細かいところに気を使った演技が上手いのに感心します。(無論演出家の指示ですが) ダルカンジェロとピサローニは実力派で分かりますが、驚きは20代の2人の女声です。エルヴィーラ役フリッチュはドラマティックな声、またツェルニーナ役ナフォルニータは可憐な声でそれぞれ役柄にぴったりで、これから大いに楽しみな歌手です。
 
エッシェンバッハのウィーン・フィルも申し分なしです。歌手にはじっくりと歌わせるし、緩急強弱の変化も見事で、久々にモーツァルトらしい音楽を聴いた感じです。
 
Medici-TVは今年ザルツブルクのオペラをいくつも流してくれありがたく感謝いたします。明日はネトレプコのトロヴァトーレです。
 
 

FranceTV オランジュ音楽祭2014 「オテロ」

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2014.8.5(火) オランジュ古代劇場ライブ収録
出演
オテロ:ロベルト・アラーニャ
デズデモナ:インヴァ・ムーラ
イヤーゴ:Seng-Hyoun Ko (コ・セン・ヒュン?)
エミーリア:ゾフィー・ポンジクリス
カッシオ:フローリアン・ラコーニ  ほか
アヴィニョン・グランド・オペラ合唱団
フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
指揮:チョン・ミュンフン
演出:ナディヌ・デュフォー
 
オランジュ音楽祭はヴェローナと同じく屋外の広大な古代劇場遺跡が舞台です。豪華なスペクタクルを観るには良いが、オテロのような心象描写オペラには向かないように思います。必要以上に左右に動かなければならないし、オペラハウスなら舞台に乗切らないくらいの大合唱団もアレーナではまばらに見えてしまいます。という訳で私は一度は行って体験するのも良いけれどもう一度観に行きたいとは思いません。
 
舞台後ろが高い壁なので音はよく反射すると言われています。確かにオケの響きは豊かなようですが歌手の声がどうかは録音では分かりません。今回聴いた限りでは随分ドライな感じがしました。
 
この演出では装置や小道具がほとんどないので衣装をつけたコンサート・オペラの感じでした。歌手ではアラーニャがダントツに素晴らしく、激情的なオテロを迫真的に演じていました。ムーラはそれにつられて悲しさがあまり出ていませんでしたが、<柳の歌>は見事な感情表現でした。近年韓国人のオペラ進出が目覚しく、初めて聴いたSeng-Hyoun Koも良い声をしています。但し悪人っぽいというか憎々しいさがちょっと足りないと感じました。
 
何より素晴らしかったのはミュンフンの指揮です。フェニーチェ歌劇場と来日した「オテロ」を観ましたが、その時よりずっとドラマティックな演奏でした。この人シンフォニーよりオペラで実力を発揮すると思います。
 
カメラワークはあまりに広いので画面を左右分割する工夫もしてましたが、行ったことのない私としては舞台全体を多く映してくれたのが有難かったです。勿論幕間の解説も字幕もフランス語。分からなくて残念でした。
 
フランス放送はチャンネルが多いですがこちらから見られます。
 
 
 

Medici-TV ザルツブルク音楽祭2014 「トロヴァトーレ」

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2014.8.15(金) 23:00(JST) ザルツブルク祝祭大劇場から生中継
出演
レオノーラ:アンナ・ネトレプコ
マンリーコ:フランチェスカ・メリ
ルナ伯爵:プラシド・ドミンゴ
アズチューナ:マリー=ニコル・ルミュー
フェルランド:リッカルド・ザネラット  ほか
ウィーン・フィル合唱団、管弦楽団
指揮:ダニエレ・ガッティ
演出:アルヴィス・ヘルマニ
 
この演出は面白い! 音楽も最高!
 
舞台は美術館。学芸員が絵の説明をしている。と思ったら突然古風な衣装に変わって普通にオペラの芝居を始める。まるで歌舞伎の早変わりみたいです。どういうことかというとこの物語は古い伝説でそれが絵画に描かれ、その中身を芝居で見せるという造りになっています。見事な発想だと思いました。
 
「トロヴァトーレ」はストーリーが現実離れ滅茶苦茶です。これが伝説なら突込みを入れる人も少ないでしょう。フェルランドやアズチューナが昔の話を言って聞かせるところなど学芸員の姿になって絵の説明に当たっています。伝説ならおかしな話も自然に受け入れられる良い演出だと思いました。
 
指揮のガッティも賞賛したいです。超スローモーの「パルジファル」で評判になりましたが、私がその後聴いた演奏はあまり好きになれませんでした。でもこれは良かったです。ゆったりしたテンポで伸ばす伸ばす。歌手も指揮者をしばしば見て必死の感じでした。それでもメリハリがあるので決して弛れることがないし、緊張感があって密度の高い演奏でした。(無論演奏者がしっかりしているからですが。) 情緒的ではないけれども演出にはよくマッチしていると思いました。
 
一番後になりましたがオペラはやはり歌手。名実ともこれだけ揃えられるのはさすがザルツブルクです。ネトレプコの歌唱力と演技力はやっぱり凄い! 鼻にかかったような暗く重い彼女の声はレオノーラには合わないと思っていましたが、ガッティの音楽では問題になりません。ルミューの迫力も凄いです。どんな強弱、音域も声が変わらずきれいです。この女声二人と同じくらい男声陣も見劣りしません。ドミンゴは年齢を考えればよくぞここまで声が出るものと驚きですがやはり不安なところがチラホラ出てきます。でもこの人がいると舞台が締まって見えるから不思議です。メリは素直な声がよく抜けて素晴らしいです。ドミンゴが前に歌っていたマンリーコですから張り切ったと思います。この人もなんでもこなせるタイプと思います。この人たちが競い合って歌うのですからそれはすごいことになるのは当然でしょう。
 
オケ、歌手、演出の三位一体、全てにわたって素晴らしいなかなかお目にかかれない公演でした。
 
 

FranceTV グラインドボーン音楽祭2014 「椿姫」

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2014.8.10(日) グラインドボーン・オペラ劇場のライブ収録
出演
ヴィオレッタ:ヴェネーラ・ギマディエヴァ
アルフレード:ミヒャエル・ファビーノ
ジェルモン:タシス・クリストヤニス  ほか
グラインドボーン合唱団
ロンドン・フィルハーモニー
指揮:マーク・エルダー
演出:トム・ケアーンス
 
これもザルツブルクのドンジョと同じく若手を起用した好演でした。外国では若い人が大舞台にどんどん登場してきます。それに引き換え日本では有名人主義で、マイナー公演それもBキャスとかでしかなかなかチャンスが巡ってきません。需要に対して供給が圧倒的に多いことは分かりますがなんとかなりませんか。
 
タイトル・ロールのギマディエヴァはボリショイ所属のまだ30代と思われますが、軽く清純な声とスリムで美しい容姿が耳目を引きます。ネトレプコがザルツに初登場した時を想起し、今後マークしておきたいと思います。相手役アルフレードには29歳のファビアーノ。甘い声でしっかり歌ってはいましたが若さが先に出た感じでした。指揮のエルダーは音を抑えてじわーとくる悲哀を出したかったみたいです。歌手もそれに応じて弱音の方に一層注意したように見えました。TVや小劇場で聴く分には良いでしょうが反面音楽が弱い印象は拭えません。
 
これは演出にも通じています。時代を現代に置き換えただけのオーソドックスなもので、純真なヴィオレッタの病弱さと悲しさを強調したいようでした。各幕ともヴィオレッタがベッドに横たわるシーンから始まり、下女が常にパーティーの席までも付き添っています。フィナーレではベッドから起き上がり歩いて外に出ようとする途中で倒れます。死ぬことはとっくに分かっているのにそれでも生きたい気持ちがよく現れていました。メイクもカメラを意識し青白いやつれた感じをよく出していました。どの場面も全く考える必要のないただひたすら観る人の感情に訴えかける演出でした。
 
グラインドボーンのオペラは楽しむためにあるようです。幕間の時間を利用して前庭で正装した観客が憩う様子や周りの田園風景を写真紹介してくれここの社交的雰囲気がよくわかりました。
 
 

豊田市ジュニアOBオーケストラ 定期演奏会

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2014.8.17(日) 14:00 豊田市コンサートホール
 
指揮:林 俊昭
曲目
グリーク:ホルベルク組曲 Op.40
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲(チェロ:森山涼介)
ハイドン:交響曲第83番 ト短調 Hob.I:83 「めんどり」
(アンコール)
チャイコフスキー:「フィレンツェの思い出」第3&4楽章
 
地元のジュニアオケ出身者が集まったプロアマ混合オケ。地元を離れている人が多く、中にはプロとして活躍してる人もいるので一堂に会するのはなかなか難しい。そんなことで毎年盆休みを利用して演奏会を開いています。
 
同じくらいの長さの曲が3つ、どれも美しいメロディーで気楽に聴けるプログラムです。しかし逆に聴く人をうならせるのは難しいと思います。心地よいので眠くなるのです。
 
弦楽合奏のホルベルク組曲。アマオケがよく取り上げますが、上手く合わせることに気が行ってしまってもう少しメリハリが欲しいと思いました。続いてチェロに都響の森さんを迎えてのロココ変奏曲。彼もジュニアオケ出身者ですがさすがによく鳴っていました。休憩後のハイドンは第1楽章が生き生きしてとても良かったです。それより格段に素晴らしかったのがアンコールの「フィレンツェの思い出」。もう一度弦楽合奏で今度はヴァイオリン、ヴィオラが立って弾きました。これが同じオケかと思うほど打って変わって各人がソリストになったように若く元気な音を出していました。ここまで仕上げれば立派なものです。
 
アンコールに先立って林先生から説明がありました。実は先生とこのオケは今年3月にクレモナの音楽院コンサートに招待されて演奏したそうです。この度再度訪問することになりこのアンコール曲を演奏するとのことでした。そういうことなら気合も入るというものです。3月のコンサートはYouTubeに出ておりますので是非ご覧ください。この日のアンコールの素晴らしさが想像できると思います。
 
曲目はドヴォルザークの弦楽セレナーデOp.22
2014.3.30(日) クレモナ ヴァイオリン博物館ホール
指揮は同じ林先生です。
 
 

MediciTV ザルツブルク音楽祭 シューベルト 「フィエラブラス」

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2014.8.25 ザルツブルク モーツァルト・ハウスのライブ録音
出演
フィエラブラス:ミヒャエル・シャーデ
フロリンダ:ドロテア・レシュマン
ローラン:マルクス・ウェルバ
エンマ:ユリア・クライスター
エギンハルト:ベンジャミン・ベルンハイム
フランク国王:ゲオルク・ザッペンフェルト
マラゴン:マリー・クロード・シャピュイ  ほか
アンゲリカ・プロコップ ウィーン・フィル・アカデミー
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:インゴ・メッツマッハ
演出:ペーター・シュタイン
 
シューベルトのオペラをTVではありますが初めて観ました。歌曲王でありながらオペラとなると今日ほとんど演奏されません。「フィエラブラス」も日本では恐らく取り上げられたことないし、海外でも極めて稀だと思います。CDはアバドのものが1枚あるだけです。(Youtubeに出ていました)
 
物語はフランク王国とサラセンの戦いが舞台で、それぞれ敵味方にある2組の恋人が主役です。タイトルロールのフィエラブラスはサラセンの王子でかってはフランクの王女(エンマ)と恋仲だったが、エンマは今フランクの騎士(エギンハルト)を愛している。またサラセンの王女(フロリンダ)はフランクの騎士(ローラン)と愛し合っている。ここでフィエラブラスはエギンハルトのために身を引き、後に王を殺そうとしたエギンハルトを抑えて父を助ける。最後は2組の結婚が成立し、めでたしめでたしとなるのですが、フィエラブラスは人のために働いて自分は何も得ていないのです。王子(いずれ国王)の物分りの良さ、身分の違うものの結婚を認める寛容、騎士の友情とか恩義の精神、一言で言えば開明的君主論みたいなものがテーマになっています。台詞が多いのも合わせてモーツァルトの「皇帝ティトスの慈悲」とか「後宮よりの誘拐」と似ています。
 
骨格はこうだと思うのですが3幕オペラとして物語の展開に起承転結が乏しく個々の出来事が並んでるだけのように見えます。これもあまり注目されない一因ではないかと思います。
 
シューベルトの音楽も良いところがあるけれども台本のせいか3時間は長いなぁと感じます。歌曲を連想するメロディーが多い一方でベートーヴェンやロッシーニだったりしてシューベルらしい美しさがまとまってないように思います。
 
演出は白黒モノトーンだが伝統的なものです。戦いの派手な立ち回り場面もなくひたすら音楽を聴かせるスタイルでした。統一感があって良いのですが、地味に過ぎ見た目もきれいではありません。せめて明暗にもっと変化をつければと感じました。
 
マイナーなオペラなのに歌手の方は素晴らしい人が揃っています。ムーア人を演じたシャーデとレシュマンは褐色のドーラン化粧で誰かわかりませんでした。無論二人の歌唱は素晴らしく、国王のゼッペンュルトも貫禄十分でした。新しく聴いた人ではクライスター、34歳の若さで清潔な声と容姿も美しくお嬢さん役にはぴったりです。シャピュイも実に上手いし、ベルハイムもウェルバもちょっと印象が薄いが好演でした。
 
最も共感したのが指揮者メッツマッハです。フレーズのニュアンスのつけ方が微妙で極めて明確なメリハリがあって素晴らしいと思いました。それに応えるウィーン・フィルあってのことですが。
 
「フィエラブラス」自体はあまり良く出来た作品とは思いませんが、それはともかく最上の演奏で聴けたことがとても良かったです。メッツマッハは10月新日本フィルに登場し、シャピュイも一緒で荘厳ミサ曲を演奏します。東京に出かける予定なので大いに楽しみです。
 
 
 

鴫原奈美&山本康寛 デュオ・リサイタル

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2014.9.3(水) 19:00 豊田市コンサートホール
驚愕のソプラノとハイCの競演
出演
鴫原奈美(しぎはら ソプラノ)、山本康寛(テノール)、甚目裕夫(はだめ ピアノ)
曲目
ドニゼッティ:「連隊の娘」より<ああ友よ! 今日はなんと楽しい日>(T
プッチーニ:「トゥーランドット」より<氷のような姫君>(S)
ザンドナイ:最後のバラ、 セレナータ(S)
山田耕筰:からたちの花(T)
武満徹:小さな空(T)
カタラーニ:「ワリー」より<遠いところへ>(S)
ビゼー:「真珠取り」より<耳に残るは君の歌声>(T)
プッチーニ:「ラ・ボエーム」より<冷たい手を(T)~私の名はミミ(S)~おお、麗しの乙女(愛の二重唱)>
(アンコール)
映画「ニューシネマパラダイス」より(T)
   「君の名は」(S)
 
豊田市コンサートホールの1コイン、通常の半分の時間のコンサートです。びわ湖ホール「死の都」で経種さんの代役を務めた山本さんが出演とあって出掛けました。
 
鴫原さんは東京音大首席卒業、イタリアのマリア・カラス国際コンクール特別賞、リッカルド・ザンドナイ国際コンクール第2位で現在ヴェローナ在住。一方山本さんは京都芸大卒業、日本音楽コンクール第2位で現在びわ湖ホール声楽アンサンブルのソロ登録メンバー。二人とも32歳で将来を期待されてる新進気鋭の若手です。
 
当日初めて会場でプログラムを知り驚きました。いきなりハイCの披露です。真央ちゃんが最初にトリプリアクスルを跳ぶようなものです。早くホールに入り発声準備をしたと思われますが、山本さんの調子は万全ではなかったようです。あの長丁場のびわ湖ホールの方がよく頑張ったという気がします。ハイCは乗り切ったものの全体的には不安が残りました。しかし声を抑えた武満の「小さな空」で細やかな詩情と綺麗な声が生きてたと思います。
 
鴫原さんは初めて聴きましたが素晴らしいです。甚目さんがザンドナイで審査員をした時に知って今回呼び寄せたそうです。美声の部類には属さないが表現力が素晴らしいと思います。オペラ舞台を見てみたいと思いました。
 
クラシック本流の二人ではありますがアンコールはなんと映画音楽で、“か~るくクラシック”にふさわしい締めでした。
 
 

WebTV 2014夏の音楽祭オペラ巡り

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例年夏休みはコンサートに出掛けることがほとんどなく、特に今年は少ないです。この間WebTVのライブが中心になるのですが今年は良いものが沢山ありました。既に記事にしたのもありますが全体を総括しておきます。(*は記事にしたものです)
 
バイロイト音楽祭(BR-Klassik)
①「タンホイザー」* (指)コーバー、(演)バウムガルテン、Tケール、Cニールント、Yクヮンチュル、Mアイへ、Mブリート
 2011制作、醸造工場が舞台。精神と肉体の葛藤を描いているだけで深みがない。音楽は立派。
 
ザルツブルク音楽祭(MediciTV)
②「ドン・ジョヴァンニ」* (指)エッシェンバッハ、(演)べヒトルフ、Iダルカンジェロ、Lピッサローニ
 時代場所を置き換えた演出で女声に若手を抜擢した好演。
③「イル・トロヴァトーレ」* (指)ガッティ、(演)ヘルマニス、Aネトレプコ、Fメリ、Pドミンゴ、Mルシュー
 物語を伝説とし美術館を舞台にした新鮮な発想。指揮、歌手、オケも申し分なしで稀に見る素晴らしい公演!
④「ばらの騎士」 (指)ウェルザー・メスト、(演)クプファー、Kストヤノヴァ、Sコッホ、Gグライスベック、Aエレート
 ちょっと暗いが普通の演出。TVで大写しされると歌手が役柄に合ってない感じ。3幕が良かった。
⑤「フィエラブラス」*  (指)メッツバッハ、(演)スタイン、Jクライスター、Dレッシュマン、Mシャピュイ、Mシェーデ、Gツェッペンフェルト
 極めて珍しいシューベルトのオペラ。ちょっと冗長の感があるが最上の演奏で初体験でした。
 
ミュンヘンオペラフェスティバル(BSO-TV)
⑥「オルフェオ」 (指)ボールトン、(演)ベッシュ、Cゲルハーヘル
 ゲルハーヘルの独り舞台。モンテヴェルディがいけないわけではないが他に流して欲しい演目がいくらもあるのにと思う。
 
オランジュ音楽祭(FranceTV)
⑦「オテロ」* (指)ミュンフン、(演)デュフォー、Rアラーニャ、Iムーラ
 ミュンフンのドラマティックな指揮とアラーニャの迫真の熱演
 
ヴェルビエ音楽祭(MediciTV)
⑧「ファウストの劫罰」* (指)デュトワ、Cカストロヌーヴォ、Wホワイト、Rドノーゼ
 劇的音楽ではあるが感情表現がオペラ的でなかった。
⑨「フィデリオ」 (指)ミンコフスキー、Iブリンバーグ、Bジョヴァノヴィッチ、Eニキーチン
 さすがオペラ指揮者ミンコフスキーはデュトワより上手い。
⑩「外套」 (指)ハーディング、Lガッロ、Bフリットり、Tアランカム、Eセメンチュク
  「ドン・カルロ」(3&4幕) (指)ハーディング、Vグリゴーロ、Lハラタニアン、Dバルチェローナ、Lガッロ、Iダルカンジェロ、Mペトレンコ
 ハーディングの指揮と歌手の競い合いが素晴らしい。32歳アランカムの声、グリゴーロ全身全霊の歌唱、ハラタニアンの綺麗な声が特に印象に残りました。ヴェルビエではこれがベスト。
 
グラインドボーン音楽祭(FranceTV)
⑪「椿姫」* (指)エルダー、(演)ケアーンス、Vギマディエヴァ、Mファビーノ
 30代ギマディエヴァの容姿と清純な声、20代ファビーノの甘い声のコンビですがすがしい好演。幕間の社交的雰囲気も分かって良かった。
 
ヴェローナ野外音楽祭(NHK)
⑫「カルメン」 (指)ナナシ、(演)ゼフィレッリ、Eセメンチュク、Iルング、Cヴェントレ、Cアルヴァレス
 「アイーダ」と共にアレーナでやるにふさわしい「カルメン」の華やかな舞台。闘牛士の登場で手拍子が起こるのはいかにもヴェローナらしい。
 
 
ヨーロッパの音楽祭は年間のシーズン公演がないところで行われるのが普通です。(例外はミュンヘン)ですから通常のオペラ公演とは違った雰囲気を持っています。格式高い社交の場もあれば観光ついでというのもあります。しかし間違いなく言えることはオペラの質はどこも高いことです。しかし好き嫌いは勿論ありますし判断も全く自己偏見でそれを踏まえた上でまとめてみます。
 
まず総合的に見て最も良かったのがザルツブルクのトロヴァトーレ。極端な読み替えもなく、それでいて伝統的とは全く異なった斬新な発想。話は出鱈目だが音楽は最高という認識を一挙に覆した将来忘れられない公演でした。
 
観る楽しさを満喫させてくれたのはやはりヴェローナの野外音楽祭。陽が完全に落ちてからの舞台の美しさは一般観光客にも受けること間違いなしです。数万人も入るバカでかい会場でその場で音楽を聴くには適しませんがテレビならその問題もありません。
 
じっくり音楽を聴くならヴェルビエ音楽祭も良い。昔は音楽家が自分たちの休暇がてらにリゾート地に集まり失礼ながら片手間にアカデミーをやってると思ったこともありましたが、それは間違いで超一級のスターもアカデミーのオケも音楽に真剣で熱意の籠った素晴らしい演奏をしています。特にハーディングの指揮と歌手が競い合ったの熱演には感動しました。
 
その他気づいたことは驚くなかれ20代30代の若い人達がこのような大舞台に沢山出ていることです。主催者の商業主義と観る側の層の薄さがあって日本のオペラはまだ未熟だと痛感します。
 
次に演出問題です。一般観光客も念頭に入れたかシーズン公演で見られる理解に苦しむような読み替えはありませんでした。ある時期オペラの実験場みたいな感があったザルツブルクも随分おとなしくなったと思います。中には素晴らしい演出もありますが、概して細かい部分での解釈とか表現法の工夫にとどまり新鮮さに乏しいと思うのは欲張ったことでしょうか。
 
今年のバイロイトは公演の前に演出家のレクチャーがあったそうです。これ自身悪いことではないが、逆にそれを聞かないと理解できないというのも考えものです。近年のバイロイトで賞賛される演出がひとつもないというのは大問題だと思います。ワーグナーが25年もかけて完成させたリングを1年かそこらで舞台に載せることがどだい無謀だと私は思います。次のリング新制作は2020年でティーレマンが指揮予定とのこと。もう今からスタートして欲しいものです。その前に今年ザルツブルク音楽祭「トロヴァトーレ」の演出家ヘルマニスが2018年「ローエングリン」の新制作を担当することになっています。指揮はティーレマン、エルザがネトレプコということで大いに期待しましょう。
 
主たる夏の音楽祭は概ねWebで廻ることができました。目星いところで抜けているのはエクサン・プロヴァンスですが、これは去年Medici とARTEが流してくれました。あとロッシーニ・オペラ・フェスティバルROPですが、ラジオ放送はあってもテレビはないみたいです。イタリアRaiTVであってもよさそうにに思います。ご存知の方お教えください。
 
 

新国立劇場2014-15開幕公演 「パルジファル」

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2014.10.2(木) 16:00 新国立劇場オペラパレス
出演
アムファルタス:エギルス・シリンス
ティトゥレル:長谷川 顯
グルネマンツ:ジョン・トムリンソン
パルジファル:クリスティアン・フランツ
クリングゾル:ロバート・ボーク
クンドリー:エヴェリン・ヘルリツィウス
聖杯騎士1:村上公太、2:北川辰彦
小姓1:九嶋香奈枝、2:国光ともこ、3:鈴木 准、4:小原啓楼
花の乙女たち1:三宅理恵、鵜木絵里、小野美咲、2:針生美智子、小林沙羅、増田弥生
アルトソロ:池田香織
新国立劇場合唱団、東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:飯守泰次郎
演出:ハリー・クプファー
 
飯守泰次郎芸術監督の初仕事はここでの初上演となる「パルジファル」。最高のワーグナー指揮者とバイロイト歌手を聴かない手はありません。それに演出はワーグナーで幾多の経験がある長老クプファーですから興味津々です。
 
結論を先に言うと日本ではまずお目にかかれない素晴らしい「パルジファル」でした。
 
まず演出ですが余分なものを極力剥ぎ取った簡潔抽象的で綺麗な舞台です。新国の舞台機構をフルに活用した大掛かりな装置ですが、その分演技は細やかなところがありました。舞台上には稲妻が光ったように奥に向かって延びるジグザグの長い演台と剣先形状をした大きなクレーンの2つしかありません。それ以外のところは真っ黒で何も見えません。すでに動画や写真が新国HPに公開されていますのでご覧になるとよく分かると思います。
 
ここから内容に触れますのでご覧になる方はご注意ください。
ワーグナーはもともと中身が哲学的ですが中でも「パルジファル」は謎めいています。ワーグナー研究家によれば「パルジファル」は他の作品と違って結論を言わないのが特徴だそうです。確かに台詞には「時間が空間になる」という有名なのがありますが、アインシュタインの相対性理論を先取りしてるかのようで、ものは見方によって変わりひとつでないことを表しています。ワーグナーはキリスト教に疑問を抱き晩年仏教に関心があったことはよく知られていますが、クプファーはそこに着目しました。この作品に出てくる人物はパルジファルだけでなく皆罪に悩み救いを求めています。ジグザグの舞台はその長い苦悩の道のりであり、槍のクレーンは罪の元凶を象徴しています。
 
前奏曲では3人の僧侶が默役で出てきます。フィナーレでその僧侶がパルジファルに法衣を着せるとパルジファルはそれを裂いてグルネマンツとクンドリーに与え自らは僧のいる方に歩いていきます。そしてキリスト教の聖杯と聖槍はクレーンに載せられ奥へ引っ込んでいくのです。パルジファルの「汚れなき愚者」とは固定観念にとらわれることなく白紙の状態でものを見ることができる者のことです。そのパルジファルによってキリスト教で救われなかったものが仏教で救われたことを表現しています。日本だからよいけれど西洋の人が観たらどう思うでしょうか。
 
面白かったのは花の乙女が舞台に現れず声だけで代わって踊り子が悩殺的な脚技を披露してくれました。歌手にとっても歌唱に集中できてよかったのではと思いました。
 
一番の注目はやはり歌手陣です。5人の外国人はフランツを除いて新国初登場です。私はバイロイトでブリュンヒルデのヘルリツィウス、ハーゲンのトムリンソン、それにジークフリートのフランツ(新国でも)を聴いています。ヘルリツィウスはその時より磨きがかかっていました。彼女はスリムなのにクンドリーとかエレクトラのように過激で個性のある役をやったら天下一品です。2幕パルジファルに対する誘惑と激怒の対比など歌唱も演技も実に迫真的です。フランツは以前の印象より歌い方が大人しくなったと思いますが声は相変わらず素晴らしいです。トムリンソンは歳食ったと感じました。しかしグルネマンツは年齢的にも近いと思われかえって円熟味があって良かったです。初めて聴いたシリンスもボークも文句なしです。これだけ素晴らしいキャストが揃って聴けるのはそうはありません。日本人も出番は少ないですが負けずに頑張っていました。特に花の乙女のアンサンブルがきれいでした。
 
飯守さんの指揮は誇張してガンガン鳴らすことをせず作品のもつ深い精神的骨格を大事にした演奏と思いました。そういう点で1幕の行進曲など迫力不足と感じた人もいるかもしれません。また2幕パルジファルが口づけで悟る部分は叫ぶというよりむしろ内省的に聴こえました。新国自慢のよくハモる合唱も人数がちょっと少ないように感じたのはやはり同じ意図だったのでしょうか。クプファーの演出も感情的でないからよくマッチしていたと思います。オケは出だしハラハラしたところがありましたが次第にまとまり満足すべき演奏だったと思います。
 
「パルジファル」は1幕のあと拍手しないのが普通ですが今回カーテンコールがありました。クプファーも飯守さんも宗教でなく哲学の観点で考えているのでしょう。しかし私は理由はともあれ拍手しない慣習があってもいいと思いますが。
 
バイロイトと同じく4時開演、休憩時間が短いので終演は10時少し前でした。それから出待ちしたのですが新制作の初日はパーティーがあるとかでなかなか出てきません。それでも20人以上の人が最後まで残っていました。一人でいくつもサインを要求する人がいるのはどうかと思いますが、12時近いのに誰も嫌な顔せずにこやかに応じていました。朝家を出て終電近くはさすがにぐったり。こんな無理はもうしません。
 
サインは飯守さんを中心に左上から反時計回りにトムリンソン、フランツ、シリンス、ボーク、ヘルリツィウスです。
 
 
イメージ 1
 
 
 
 

新日本フィルハーモニー定期公演  荘厳ミサ曲

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2014.10.3(金) 19:00 すみだトリフォニーホール
曲目
ツィンマーマン:管弦楽のスケッチ「静寂と反転」 (日本初演)
ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス ニ長調 op.123
出演
ソプラノ:スザンネ・ベルンハルト
メゾ・ソプラノ:マリー=クロード・シャピュイ
テノール:マクシミリアン・シュミット
バス:トーマス・タックル
栗友会合唱団、新日本フィルハーモニー交響楽団
指揮:インゴ・メッツマッハー
 
現代と古典の組み合わせだが1作品のように続けて演奏しました。荘厳ミサ曲は第9と共にベートーヴェン晩年の大作ですが第9に比べ演奏機会は桁違いに少ない。ミサ曲とは言え極めて交響的で教会で演奏されることがほとんどありませんから尚更です。私も生で聴くのは何十年振りのことです。
 
インゴ・メッツマッハーはドイツ生まれでティーレマンとは同年代、しかし人気は彼に一歩譲っています。その理由の一つに彼が現代音楽に熱心なことがあるかもしれません。でもティーレマンとは違った良い演奏をする指揮者と思います。
 
メッツマッハーが昨年9月新日本フィルの"Conductor in Residence"(どうして日本語で言わないの)に就任してからツィンマーマンとベートーヴェンを組み合わせたプログラムに取り組んでいます。二人の作曲家にどんなつながりがあるか全く知りませんが(多分何もないかも)現代音楽を聴いてもらうには現実的に良い方法です。
 
「静寂と反転」は弱音フレーズが微妙な変化で反復するだけのようです。まるで死を目前にしてただ待ってるだけみたいです。曲が終わると(つまり死が訪れると)間を置かずミサ曲が始まります。全く性格が違う曲なのに、ひとつの作品として続けても序奏に思えて雰囲気的にとても良かったです。
 
メッツマッハーの指揮は強弱テンポの設定に明確なメリハリがあり、構成力がしっかりし、極めてシンフォニックです。ホールの響きの良さもあってダレたところがありません。ソリスト、合唱、オケともバランスが取れたふくよかで良い音を出していました。特にメゾのシャピュイ、テノールのシュミット、コンマス崔さんのソロヴァイオリンが美しかったです。
 
このホール音響はいいのですが客席にいて落ち着きません。1階席なら良いかもしれませんが3階では吸い込まれそうな気になります。昨日遅かったので今日はサイン会も失礼して退場しました。2日間素晴らしい演奏に恵まれ上京した甲斐がありました。
 
 

歌舞伎とオペラ

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2012.10.3(金) 東京歌舞伎座  十月大歌舞伎 昼の部
 
イメージ 1オペラで上京するに合わせて新装なった歌舞伎座に行ってみたいと思っていましたが、チケットが取れずなかなか実現しませんでした。今回発売日の一番にアクセスしたら運良くつながり無事ゲットすることができました。
 
若い頃はちょいちょい観たのですがもう何十年も遠ざかっています。役者もすっかり代が変わって孫の世代になっていますから全て初めて観るようなものです。演目はともかく雰囲気を味わってきました。
 
新しい歌舞伎座は正面玄関など昔の面影を残していますが随分と大きくなったと思います。座席数が1800でコンサートホールと変わりありません。ロビーが狭いのと売店がデパートの特売場みたいなのにはがっかりしました。
 
歌舞伎に招待、団体客が多いのは昔からですが、この頃高級ホテルとグルメを合わせたツアーが話題になっていてあちこち広告を見かけます。
 
さて歌舞伎は字のごとく歌と踊りと演技の芝居です。これならオペラも同じで、しかも不思議なことに成立年代も1600年ごろと同じです。決定的に異なるのは、歌舞伎では役者が歌わないしオペラでは役者が踊らないことです。両者とも役者がやらないところは他の人が受け持ちます。こう考えると歌舞伎は観るものオペラは聴くものということがよくわかります。但し歌舞伎の伝統は変わらず受け継がれているのに、オペラの方は新しい見方で読み替える演出が増え観ないとわからないものもあります。しかし基本は変わらないと思います。
 
歌舞伎も変わったところがないわけではないと思いました。今の役者はテレビドラマとか映画に顔を出す人が多く、その所為とは言わないが、歌舞伎役者としての重み深みが薄くなったように感じました。人を笑わせるのは上手いが心に響く感動が少なかったです。歌舞伎を観る側も変わったと思いました。昔は一般のファンが天井桟敷の大向うから掛け声をかけたような気がしますが、私が観た日はそういうことがありませんでした。代わって専門のプロが(ゾメキ屋と言わなかったかしら?)ドア近くに立って頻繁に声を入れていました。観るものなら関係ないとは言え、慣れない私などうるさいと感じたほどでした。
 
チケットは取り難いがそれでもオペラに比べればかなりのエコノミー席が有り、当日一幕だけ観ることもできます。若いオペラファンを増やすには参考になるシステムだと思いますが如何でしょうか。
 
歌舞伎がはねた後合羽橋の道具街をまわってトリフォニーに行きました。これではぐったりするのも無理なかったです。
 
 

沼尻竜典オペラセレクション 「リゴレット」

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2014.10.11 (土) 14:00 びわ湖ホール大ホール
出演
リゴレット:堀内康雄イメージ 1
ジルダ:幸田浩子
マントヴァ公爵:福井 敬
スパラフチーレ:斉木健詞
マッダレーナ:谷口睦美
モンテローネ伯爵:片桐直樹、 ジョヴァンナ:小林久美子
マルッロ:清水良一、 マッテオ・ボルサ:二塚直紀
チェプラーノ伯爵:津国直樹、 同伯爵夫人:澤村翔子
マントヴァ公爵夫人の小姓:鈴木愛美、 門衛:江原 実
藤原歌劇団合唱部、日本センチュリー交響f楽団
指揮:沼尻竜典
演出:田尾下 哲
 
オペラを観る私の選択技は演目と歌手ですが、今回は完全に後者です。期待を裏切らず素晴らしい出来栄えでこんな清純可憐なジルダは観たことがありません。それにソリストすべての歌唱が聴き応えがあり観るより聴くオペラの感がありました。
 
幸田さんはレギュラーTV番組を持っていて大丈夫かと心配になります。その所為ではないでしょうが、レパートリーとしてツェルビネッタ、オランピアなどコロラチューラの軽い時間的にも短い役に限定してきました。今回は初めて全幕に登場するジルダです。無理に声を出そうとせずこれまで通り声の美しさを出そうと努めていたのが良かったです。他の人に比べ声量が小さいですが聴こえないわけではないので良しとしなければいけません。堀内さんは軽い役から重い役まで何でもこなせる日本を代表するバリトンです。リゴレットは道化、優しい父親、復讐する男、絶望する人間を演じなければなりません。派手に演技するわけでないのですが、常に安定した歌い方と力のある声に感激します。マントヴァ公爵の福井さんは個性的な歌い方で私の好みとは違いますがとても迫力がありました。その他で特に挙げれば、片桐さんが堂々とした身体で歌に威厳がありましたし、注目の澤村さんは見栄えする容姿で声も演技力もあるのでもっと歌って欲しいと望みます。
 
沼尻さんの指揮はオーソドックスで上手く統率していましたし、オケも合唱もよく応えていたと思います。敢えて注文を言わせてもらえば、起伏の大きさでしょうか、変化のあるメリハリがあると良いと思いました。
 
最後に演出ですが読み替えのない極く普通のものでした。ひとつ気づいたところはジルダが殺される場面で、殺すのはリゴレットが頼んだスパラフチーレでなく、リゴレットを憎んでいる大勢の貴族たちだったことです。マントヴァ公爵お抱えの道化として皆に憎まれているからそれもありと思いました。
 
舞台はスノボー・ハーフパイプ状の装置を分割したり組み合わせたりして場面転換を図っています。積み木細工みたいでよく工夫されてると思いましたが、上部がポカンと空いて貧弱に見えました。予算的制約があるとはいえ深刻な話に軽い舞台は合わないように思いました。 しかし外国でよくあるベッドが出てこなかったのは幸田ジルダにはとても良かったです。
 
総じて、音楽的には素晴らしいと思いましたが芝居のドラマ性に共感するには今一歩かと感じました。
 
 

モネ劇場Web-TV   リヒャルト・シュトラウス 「ダフネ」

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モネ劇場2014-15シーズン開幕9月公演
出演
ペナイオス:イアン・パターソン
ゲア:ビルギット・レンメルト
ダフネ:サリー・マシューズ
アポロ:エリック・カットラー
ロイキポス:ぺーター・ロダール
モネ劇場合唱団、管弦楽団
指揮:ローター・ケーニヒ
演出:グイ・ジョーステン
 
モネ劇場はリヒャルト・シュトラウス生誕150年を記念して「ダフネ」でシーズンを開幕しました。なかなか舞台には登らない作品で、日本では2007年二期会の公演が話題になったくらいです。TVとは言え珍しいオペラを素晴らしい歌手と面白い演出で見られたのは良かったと思います。
 
オペラハウスの正面玄関みたいに舞台中央の大きな階段が奥で左右に別れ、その後ろに巨大な月桂樹の幹が伸びています。(こんなに楠みたいに大きくなるかしら?) 劇場舞台の幅、高さを目一杯に使った大きな装置で照明によって美しく造られています。
 
グイ・ジョーステンはギリシャ神話の非現実的話をバブルに浮かれていた少し前の現実的社会に読み替えています。ペナイオスとゲアは株取引で大儲けをし享楽的生活を送っている夫婦ですし、羊飼いたちもおどらされてる一般人です。アポロはこの世界の権力を一手に収めた帝王でしょう。これに対してダフネはそういう生活に全く馴染めない乙女であり、ロイキポスも本来は素朴な人間なのにおどらされて一般人の仲間に入る青年です。中央階段は浮かれた世界、月桂樹は素朴な世界を象徴し、この二つを対比させています。
 
このオペラの注目点はダフネが月桂樹に変身する場面をどう描くかです。ジョーステンの解釈は月桂樹になるのは人間でなくなること、つまり死を意味してることです。この演出ではアポロが恋敵ロイキポスの殺害を後悔してダフネを諦め、一方ダフネは冷たくあしらったロイキポスの真心に打たれ自らも死を選ぶのです。このフィナーレが見応えがあり感動的でした。アポロが月桂樹の根元でうずくまり、ダフネは樹に登っていきます。すると炎が燃え上がり次第にダフネに迫っていきます。ダフネが月明かりに照らされる中最後の一言を歌って幕となるのです。
 
歌手も揃っていました。マシューズは力強い声でしかも恐いほど高い所で歌ったり吊り梯にぶら下がって歌うなどそれは大奮闘でした。ルックスもダフネの役柄に合って素晴らしかったです。カットラーは豊かな美しい声のテナーで本来の神アポロならもっと良かったと思います。この二人に比べるとパターソン、ロダールはちょっと大人しいが上手く歌っていたし、レンメルトは声に凄く重量感があり女賭博師みたいな貫禄がありました。TVで音のことを言うのは良くないですが、オケが豊潤華麗なシュトラウスの響きに聴こえなかったのが惜しいかなといった感じです。
 
モネ劇場はシーズン演目を順次オンデマンドで観ることができます。これからストリーミングでは7月のラフマニノフ「トロイカ」が楽しみです。
 
「ダフネ」は10/21まで観られますので関心のある方はこちらからご覧ください。
 
 

音楽と書、音楽と料理

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今日はちょっと変わった話です。
 
書は視覚芸術の中で音楽と共通点があります。ただしここで言う書とは連綿帯の漢字とか仮名のように伝統的なものです。少字数の絵のような書は含みません。この2つが似ているのは1回限りで同じものが2度とできないし、作品に流れがあるところです。音楽では一旦出した音はそのまま聴く人の耳に届いてしまいます。書も一度筆をおろして書き始めれば絵のように上塗りできず修正が効きません。両者とも一発勝負です。また時間的流れがあり、その中に必ず変化があります。こういうところが似ていて好きです。
 
芸術以外の分野でも似ているものがあります。それが料理です。楽譜やレシピと言った基準になるものがあるのに再現すると2度と同じものはできません。聴いたり食べ終わった時点で消えてしまい、記憶に残るものは人それぞれです。
 
音楽家の中には料理の得意な人が多いようです。ロッシーニなど30歳そこそこで作曲をやめてしまい、その後は料理で過ごしたなんて有名な話があります。それは置いとくとしても今日の演奏家には仕事の都合上あるいは若い人では留学など単身生活を強いられることも多いと思います。それでは生活上の必要から料理に関心を持たざるを得なくなるでしょう。でも音楽と料理に向かう姿勢が似ていることもあるのではと想像します。
 
私は書の方は若い頃かなりの期間やって少しは分かりますが料理は全く経験がありません。音楽は楽器が何もできずただ聴くだけですが、料理ならやって出来なくはないです。音楽家と音楽に対する気持ちが多少なりと共有できればと出鱈目な考えですが楽しくやってみようと思っています。時間もあることですし。
 
 
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